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お昼は不意打ちキス
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「千秋さんお弁当も作ってきたんですね」
千秋さんと並んで、数学教室へ向かっている。
「うん。碧と一緒に食べようと思ってね」
「あっ、学校では名前は……」
ふと思い出した、職場では名前呼びはしないと言った千秋さんの言葉。
「だったね。うっかり、呼んじゃった」
にこにこ笑顔の千秋さん。
幸いにも、数学教室へ向かう廊下には誰もいなかったから、いいけど…。
「でも、柏木先生も、今、うっかり呼んじゃったので、お互い様です」
立ち止まって周りを見渡していたことで、少し先を歩いている千秋さんが振り向いた。
「まぁ確かにそうですね」
俺も公私混同せず、しっかり使い分けないとなー。
立ち止まって此方を振り向いている千秋さんの横へ小走りで近づいた。
「あ!高宮先生、課題のプリント―――」
数学教室の前に立っていた男子生徒が、歩いてきている俺たちに気づいて………え、この子…。
千秋さんから横にいる俺に視線を移した男子生徒は、見覚えのある顔。
「柏木先生!」
「えーと……」
確か名前は……遠藤拓海。
俺が以前、勤めていた塾の生徒だ。
「まさか、柏木先生が俺の学校に赴任してくるなんて思いませんでした!」
テンション高い遠藤くんは、すぐさま俺に近づいた。
俺とそんなに変わらない身長なので、真正面に遠藤くんの顔がある。
「…でも柏木先生の授業受けられないのは、ちょっと嫌です。せっかく、柏木先生が紀陵に来たのに…」
しょんぼりと俯いた遠藤くん。
そういえば、この子、俺の授業が好きとか言ってたな。
俺は1年の国語しか教えないので、2年生の遠藤くんとは授業では関わらない。
「――でも、放課後とか、分からないところ聞きに行ってもいいですか?」
「……いや、俺より―――」
「――遠藤くんは僕に用事があったんじゃないですか?」
俺の言葉を遮るように、横に立っていた千秋さんが遠藤くんに要件を聞いた。
その声は今まで聞いたことのないほど、低かった。
「あっ。だった!これ、クラス全員分の数学の課題です」
俺から千秋さんにシフトした遠藤くんの視線。
両手に抱えていたプリントの束を千秋さんに渡した。
「ご苦労様です。それでは、生徒は下校の時間ですので、遠藤くんも早く帰りなさい」
プリントを受け取った千秋さんは、遠藤くんに冷たくそう言い、数学教室の鍵を開けた。
その姿がいつもの物腰柔らかい印象の千秋さんとは、随分かけ離れていて遠藤くんも驚いているようで、目を瞠っている。
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