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お昼は不意打ちキス

「そういえば、碧、朝食べてないもんねー。ほら、食べていいよ」  千秋さんが弁当箱を俺の前に置いた。 「それじゃあ…。いただきます」 「どうぞどうぞ」  俺は卵焼きに箸を伸ばした。  好きな砂糖の入った甘い卵焼き。  やっぱり美味しいなー。  今日の朝のメニューだった、エッグペネディクトも美味しそうだったよな…。  なんか最近流行っている、お洒落な朝食メニュー。 「――また今度、エッグペネディクト作るね」  俺が考えていたことがわかったのか、微笑みながら言った千秋さん。  何で、わかったんだろう…?  首を傾げた俺に笑っている千秋さんは、自分もお弁当から卵焼きを箸でつまみ口に入れた。 「そういえば、卵焼きこの味で大丈夫?」 「えっ?」 「俺、卵焼き甘いほうが好きだからさ」 「俺も甘いほうが好きなので大丈夫です!」  千秋さんと好みが同じって嬉しいなー。  俺は嬉しくて、横に座っている千秋さんを見詰めた。  すると、千秋さんも体ごと俺に向けた視線が重なった。 「――さっきの俺、恐かったでしょ?」  真剣な顔で俺を見た千秋さん。 「…ごめんね。腹たって、どうしても抑えきれなくて……」  じーっと俺の顔を見ていた千秋さんがあからさまに視線を逸らた。 「……確かに…、ちょっと怖かったです――」  そう呟いた俺の声に反応した千秋さん。 「でも、どんな千秋さんでも、千秋さんには変わらないです。だから、俺はどんな千秋さんでもやっぱり好きです」  それに、別に俺に向かってあんな恐い表情を浮かべたわけじゃないし――。 「……ありがとう」  俯いていた顔が、バッと上がり俺の顔を映した千秋さんの綺麗な瞳。  恥ずかしくなり、俺は食べかけの卵焼きを口に入れた。

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