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涙の雨そして親友の優しさ

 横断歩道を挟んだ、向かい側。  いつの間にか赤に変わり、車が千秋さんと俺の間の道路を通過している。  通過する車の間から見える、綺麗な女性と千秋さんの姿。  ふたりは親しげに話しながら、俺からどんどん離れていく。  ――まさに、美男美女。  笑いながら千秋さんの背中をバシバシ叩いている女性。  そんな女性の手を掴んだ千秋さん。  叩かれていたのに、怒っている様子ではなく、女性と向かい合って何か話している。  そして、女性も頬を染めている。  そんな姿がまるで、カップルがイチャイチャしているようで――。  そっか。あの人は千秋さんの彼女なんだ。  ――そういえば、俺は千秋さんに「好き」って言われたことがあるだろうか。  俺は酔ったときとはいえ、千秋さんに告白した。  千秋さんはそんな俺の告白に「嬉しい」とは言ったが、自分も好きとは言っていない。  千秋さんの「嬉しい」という言葉を、俺が勝手に千秋さんも俺と同じ気持ちだと勘違いしただけ。  別に千秋さんは、俺のことを恋愛感情では見ていない。  現に、千秋さんにはすごく美人な彼女がいるんだ。  ぼっと突っ立ったままの俺を通り過ぎる人たちが、ちらっと横目で見ている。  そんな視線にも気づかないほど、頭が空っぽの俺。    千秋さんと女性は歩いて行ったのか、俺の前、横断歩道の向こう側にふたりの姿はない。

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