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涙の雨そして親友の優しさ
「碧の服は洗濯して、今、乾燥機かけてるけど、今日帰るか?」
食器を洗い終わり、比呂が座ってるソファーに俺も座った。
帰りたくないな…。
「まぁ面倒くさいし、今日は俺ん家泊まるか」
複雑な顔をしている俺をみた比呂は、そう言いテレビを点けた。
比呂のこういう空気の読めるところが、大学の頃から居心地よくて、そんな比呂にいつも甘えてしまっていた。
今回もそうだよなー。
きっと何で俺があんなところにしゃがんでいたのか、しかも雨の中。
気になっているはずなのに、俺が話すまで聞かない。
優しい比呂が、親友として好きだ。
ニュースを見ている比呂の横顔をじっと見詰めた。
「あ、だった。お前のスマホ、さっきから鳴ってるぞ」
テレビから俺に視線を移した比呂は、机に置いてある俺のスマホを指差した。
「ズボンのポケットに入ってたから、洗濯する前にここに置いといた」
「あっ、えーと…ありがとう」
俺はスマホを手に取った。
多分、電話は千秋さんからだろう。
不在着信は、案の定、全部千秋さんだ。
俺は比呂に聞こえないように、小さくため息を吐き、スマホの電源を消した。
ブーという振動とともに、真っ暗になった画面。
とりあえず、今は千秋さんとは話せない。
同じ職場だから、明日千秋さんに会う。
逃げたって仕方ないんだけどな。
「お前は今日ベットで寝ろよ。俺はここで寝るから」
真っ暗な画面を見詰めたままの俺に、ニュースを見ながら言った比呂。
「いや、俺がここで寝るよ。俺が勝手に泊まっちゃったんだし…」
「いいから。お前雨に濡れてたんだし、ベットで寝ろ」
結局、無理やりベットに俺を連れて行き、無理やり寝かせた比呂は、布団を被せた。
「夏とはいえ、風邪引くかもしれない。俺の厚意に甘えとけ」
「……まぁ比呂がそんなに言うなら…」
借りたシャンプーの匂いと仄かに香る男らしい香り、比呂の匂いだろうか…寝具に染み付いている。
それが妙に安心できて、俺は眠りについていた。
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