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千秋と比呂
ファミレスの駐車場に着き、職場にうその理由で遅れることを電話し、店の中へ。
平日の朝。
ファミレスにはお客は少なく、待ち合わせの相手もまだいないようだ。
俺は店員に案内された席に座った。
それから5分もしないうちに、スーツ姿の男が店の中へと入ってきた。
座ってる俺を一瞬みた男は、真っ直ぐ此方へ歩いてきた。
無駄のない綺麗な歩き方だ。
「あなたが真中さんですか?」
あっという間に此方へ近づき、俺を見下ろしている。
「そうです。高宮さんですね」
俺は立ち上がって男と同じ目線にした。
「――で、碧は今あなたの家にいるんですよね」
「はい」
高宮は俺が立ち上がったのも気にせず、本題を切り出した。
俺はもう一度座り、「座ってください」と向かいの席を手で示した。
そんな俺を一瞥し、向かいの席に座った高宮。
座ったと同時に、店員が水の入ったコップを2つ持ってきた。
「それで、碧は?」
その水を飲んでいた俺を睨むように見ている。
「…碧なら熱が出て、今寝てます」
そう答えると、一気に目が見開いた高宮は、家はどこか聞いてきた。
「その前に昨夜、雨の中碧は道路にしゃがみこんでました」
「……えっ?」
「熱はそのせいだと思います。どうしてあんな所にしゃがみこんでいたのか知りません。理由は聞いてないので。でも、原因はあなたじゃないんですか?」
俺はストレートに伝えたいことを言った。
高宮は驚いているのか、目を見開き瞬きもせず俺の顔を見ている。
その視線に落ち着かず、窓に目線をやった。
ぼっと道路を通る車を見ていた俺に、その道路がどこら辺かを聞いた高宮。
俺はもう一度、前に座ってる高宮の顔をみて、昨日碧がしゃがみこんでいた所の大体の住所を言った。
ますます目を見開く高宮。
何か心当たりがあるようだ。
俺は水を飲み干し、家の鍵を机に置いた。
「碧のこと迎えに行ってください。碧も何か勘違いしてる部分とかもあると思います。ちゃんと高宮さんの口で説明してください。鍵は、ポストに入れといてくれればいいです」
俺は早口で伝えたいことを言い、席を立った。
「……迷惑かけてしまいました。すみません」
立ち上がった俺を見上げ言った高宮の顔は、会ったばかりの時みたいに睨んではおらず、眉を下げて困ったような顔をしている。
「…別に。俺は碧の悲しんでる顔を見たくなかったので」
俺は高宮から視線を逸らしつつそう言い、今度こそ店を出るため歩く。
さて、今から職場に行かないと。
今日は、あいつのための課外をやるほどの余裕はないかもな…。
あいつには課外は休みと伝えないと。
俺ははぁっと息を吐き、車のエンジンをかけ、職場である日高高校へと向かった。
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