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誤解と真実
*
「……喉渇いたな…」
喉の渇きで目が覚めた俺が寝ていたベットは、昨日の夜から寝ているシングルサイズの比呂のベットじゃない。
ダブルサイズの広いベット。
寝具もシワ一つ無い白色のシンプルなシーツ。
なんでだ…。
ここって―――
「――目覚めたんだね」
寝室の扉から俺を見ている人は……、
「……千秋さん…」
「具合はどう?」
俺が寝ているベットに近づき、横に跪いた千秋さんは俺の額に手を乗せた。
冷たい手が気持いい。
「まだ少し熱があるかな」
額の手はすぐ離れ、熱さまシートを張り替えてくれた千秋さん。
どこか、余所余所しい態度の千秋さん。
昨日連絡もせず、帰ってこなかった俺に怒った様子もない。
俺は眉の下がった悲しそうな顔の千秋さんを見詰めた。
「……ごめんね」
そんな俺の視線から逸らし、俯いた千秋さんは小さい声で呟いた。
何で千秋さんが謝るんだろう。
「熱が出てしまったのも俺のせいだ…」
「え?」
俯いていた千秋さんの顔が上がり、俺を見た。
「碧は昨日、俺と悠花が一緒にいるところを見たんだよね…?」
悠花…?
あぁー。やっぱり悠花さんという人は千秋さんの彼女さんなんだ。
昨日見た、千秋さんと悠花さんの姿が頭をかすめた。
美形な千秋さんに、美女の悠花さん。
千秋さんの隣に相応しいのは、平凡な男の俺なんかよりも美人で綺麗な悠花さんの方がいいに決まってる。
悲しくなり、涙が出そうな俺はその顔を見られたくなくて、布団で顔を隠す。
千秋さんに、悠花さんとお似合いですね。美男美女カップルです。って笑顔で言わないと。
そして、俺はこの家から出ないと。
「―――悠花は俺の幼馴染。悠花には好きな人がいる。てかその好きな人と来月結婚する」
……え。
千秋さんの今の言葉が聞き間違いではないかと疑い、布団で隠していた顔を出し千秋さんの顔を見た。
眉は下がっているが、真剣な顔で俺を見ている。
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