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君を好きになった瞬間
***
―――大学卒業後、紀陵高校の数学教師として赴任して、1年が経ち大分、仕事にも慣れた頃。
『――千秋あんた今日から私の家で、夜ご飯作って』
昼休み。
いきなり姉さんから電話があったと思えば、単刀直入にそう切り出した。
「はぁ?何で俺が?」
『あんた、料理うまいしお願い。今日からね。仕事終わったら私の家来てね』
断る言葉を言う前に、勝手に電話を切った姉さん。
はぁー。もう我儘なやつだ…
仕事が終わり、車でここから30分以上かけて姉さんのマンションに向かう。
その前に、何か食材買うか。
どうせ、料理を作る食材なんて家にないだろう。
料理が破滅的に苦手な姉さんは、レシピを見て作ってもレシピ通りの美味しいものはできない。逆にすごい。
俺は姉さん家の近くのスーパーに寄る。
何作ろう。
なんかもう簡単なものでいいかな。
店内を見て回り、鮭に安売りのシールが貼られていたので、鮭のムニエルを作ることにした。
「………店員さん…」
レジ近く、腰の曲がったお婆さんが急かしく品出しで動き回っている店員さんに声をかけているが、夕方の時間帯、賑わった店内で控えめな声のおばあさんの呼び掛けは聞こえなかったようで店員は箱から出し終わりその場を去っていった。
店員ではないが、俺がかわりに要件を聞こうとお婆さんのの元へ近寄る。
「――お婆ちゃん、どうされました?」
俺がお婆さんに話しかけようとしたとき、前からやってきた店のエプロンをつけた男性が先に腰を屈め、お婆さんと同じ目線になって聞いた。
「……店員さん。醤油の場所がわからなくて……」
「醤油ですね。それでしたら此方です」
お婆さんに優しく微笑み、醤油の置いてある棚へと案内する男性。
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