99 / 132
君を好きになった瞬間
俺の横を通り過ぎる際も、笑顔で軽く会釈する。
その笑顔が温かくて、その場で固まっていた俺は、着信の音で我に返った。
電話は姉さんからで、「早く家に来い」という催促だったが、そんな姉の我儘な言動にもイラつかないほど、あの男性の笑顔が頭の中を埋め尽くしている。
適当に返事して、レジへと向かった。
そのレジで彼の姿を見つけた。
商品をスキャンしながらも顔は笑顔で、お釣りを渡すときも笑顔。
俺は迷わず彼のレジに並んだ。
あと少しで俺の番というとき、隣のレジから若い女性の「次でお並びのお客様、こちらへ」という呼びかけで、渋々、隣のレジで会計した。
結局、姉さんの部屋で鮭のムニエルを作ってる時も、家に帰って夜寝るときも、次の日になっても彼の笑顔が頭から離れない。
彼の優しくて温かい笑顔を、俺にも向けて欲しかった。
そんなよくわからない独占欲まで生まれている――。
四六時中、彼のことが頭をちらつかせてる。
あー、これが恋なんだ。昼休み、持参した弁当の蓋を開いたはいいが、固まったままの俺は気づいた。
それから、週4日は車で30分以上かけて、そのスーパーに買い物に行き 毎回、彼のレジに並んで、会計してもらった。
彼の笑顔は、近くで見てもやっぱり温かくて、彼の周りの空気はふんわりしていて仕事の疲れなんて吹き飛ぶぐらいの破壊力だった。
お釣りを渡される時、当たる手に妙にドキドキして、いい歳の自分が中学男児並みの動揺っぷりに驚く。
ともだちにシェアしよう!