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第3話
「まずはこんなもんかね」
フリーマーケットが開始されるまであと20分程あるが、意外と人の往来は激しかった。甘利曰く、開始前の品出し時を狙って商品を無銭で持っていってしまうような人間もいるらしい。また最初から商品を全て出してしまうと、盗人や客人、とにかく、誰かが来ても対応が難しくなるとのことだった。
「フリマは2人以上いると、何かと都合が良いんだわ。複数のグループが買いに来ることもあるし、トイレや買い物にだって行けなかったら、我慢するしかないけど、できたら行きたいし」
「へぇ……」
「それで、ウェットティッシュやトイレットペーパーなんかもできる限り、置くようにしていててさ。食事の時に便利だし、割と公園のトイレって紙がない時は容赦なしにないし、ここって市街地? 町のくせに意外と近くにコンビニとかもないし」
「へぇ……」
聞いてもないが、フリーマーケットの心得を話す甘利に降旗は適当に相槌を打つ。甘利の話があまりにつまらない。そんな訳ではないが、おそらく、フリーマーケットに出店するなんてことは今後の降旗の人生にはない。
確かに、少しだけものを捨てる時に、他の誰かが使うことを考えてみたり、ヴィナーヤカへサイズが合わなくなって、着れなくなった衣類を持っていったりするようになった。若い男ものの服は時期さえ間違わなければ結構簡単に売れるらしい。
だが、元々、ストレス解消にはパフェ屋巡りと断捨離するのが一番で、接客のバイトもそれ程、希望していなかった。
しかも、今はネットで何でも売れるし、大抵のものは買える時代だ。
公園や何かのイベントホールに商品を直に並べて、客とか人間と交流を持って……なんていうのは酷く面倒で、非効率なことのように降旗には思えた。
「ちょっと分からないですね」
「ん? 値段下げ交渉の時の対応とか?」
「あ、いや……何でもないです……」
降旗の言った『ちょっと分からない』。
それはフリーマーケットのことではなく、甘利のことだった。
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