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第8話
「え、俺が、ですか?」
思いがけなく投げかけられた蓬莱の言葉に、降旗はさらに困惑する。
桐の箱に入った透き通った緑の石は綺麗でずっと見ていたくなる。檜の箱に入った白く濁った緑の石も味があるように見え、目が離せない。そして、杉の箱に入った石はどちらの要素も兼ね備えている。
月並みではあるが、どれも違っている故に良くも悪くも見えてしまうのだ。
「人間も同じなんでしょうね。例えば……」
蓬莱は紫の羽織に包まれた袖を優雅に動かすと、桐の箱と杉の箱に入った緑石を入れ替える。杉の箱と檜の箱に入った緑石も入れ替えた。
「あ……」
「ふふ、これで箱の価値は関係ないですね。人間で言うと、容姿や学歴、家族構成といったところでしょうか。そして」
蓬莱は檜の箱に入れた元・杉の箱に入っていた表面が少しぼこぼこしている石を取り出すと、2つに割ってしまう。
「ああっ!」
蓬莱によってがりっと音を立てて、2つの欠片になってしまった緑石はぼこぼことした部分がなくなる。元々、透き通った石と白く濁った石を歪にくっつつけて、1つの石にしていただけだったのだ。と降旗は思い至った。
「石は性格や心根、意識的、無意識的に抱く全ての感情。といったところでしょうか。ただ、それさえも不変のものとは限らない。情や愛のようにね……」
パラパラと石の細かな粒を落とすと、蓬莱はまた紫の羽織を優雅に揺らしながら店の方へ戻り、降旗へ「貴方が無理なら」と紙切れを渡す。降旗も実物を見たことはなかったが、0が6つ、7つ続いた小切手だった。
「こちらの店主を求めたく思います」
店主。
それは昼食を買いにどこかへ行って、未だこの場に帰らない甘利一生だった。
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