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05 魔女の企み

 ある夜、ドロシーは予定より早く友人との旅行から帰ってきた。  家に入ると、記者である主人が顔を真っ青にして駆け寄ってきた。 『ドロシー、なぜ帰ってきた!早く逃げろ!俺は殺される。知ってはいけない事を知ってしまった』  その必死の形相は冗談には見えない。  何故殺されなければならない、何を知った、問い詰めるドロシーに混乱した主人はうっかり口を滑らせた。  世の中には人を食う亜人が存在するということ。  そして、人種調和協会という組織が隠している秘密。  吸血鬼が生きたまま人狼の肉を食う、または人狼が吸血鬼の肉を食うとどうなるか。  人間と変わらぬほど弱体化したその体に“真の力が蘇る”のだ。  獣に変身し空を飛び野を翔け、鏡に未来や過去を映し、身体を貫かれても死なず、弾丸の軌道を逸らし、人間を蹂躙する圧倒的な力。  その事実が亜人に知れ渡れば、吸血鬼と人狼は共食いを始め、力を得た亜人は人間を容赦なく襲うだろう。  そうなれば法律も銃も意味など成さない。  圧倒的な力を前に人類は“餌”になるのだ。  主人がドロシーをパントリーに隠してすぐ、いくつもの足音がして、翌朝になると夫の姿は何処にもなかった。  最愛の人を亡くしたドロシーの中には憎しみだけが残った。 『許さない。主人を食った亜人も、その事実を隠す協会も、絶対に許さない。何も知らず能天気に生きる人間共も、私と同じ悲しみを知ればいい』  ドロシーは偶然にも近所に吸血鬼と人狼の子供がいることを知った。  腹いせに殺してやろうとマンダラゲの花をデザートに混ぜたが、亜人に花の毒は効かず、幻覚と意識障害だけを引き起こした。  そこでドロシーは閃いた。  マンダラゲの花で魔法をかけることを。  いくら“肉を食えば力が戻る”と吹聴しても、亜人の存在など知らない人間に精神科に連れられてしまうのがおちだ。  亜人だって、深く浸透した“禁忌”が怖ろしくて実践しないだろう。  なので、遊びに来たアンディとジャンに花を食べさせ、朦朧とした耳元に囁いた。 『人狼の肉を食べなさい』 『吸血鬼の肉を食べなさい』  協会に不審な動きを感付かれていたが、ギリギリまで洗脳を続けた。  ドロシーが殺された後、二人は犯人を捜してめぐり合い、共食いをする。  そして秘密が明らかになり、世界は混沌に包まれる。  これが、一か八かの魔女の計画だった。    ドロシーの家に、親に殴られて痣を作った、幼い頃のアンディが入ってくる。  それをドロシーが抱きしめ、一緒にパイを作ろうと誘う。  出来上がったパイを二人で食べ、残りを棚にしまう。  翌日、仲間に苛められて傷らだけになった、幼い頃のジャンが入ってくる。  ドロシーは童謡を歌いながら手当てをし、優しく優しく慰める。  棚から残りのパイを取り出し、共に食べる。  ジャンとジャムを作り、翌日アンディがそれを口にする。  アンディとソファカバーを縫い、翌日ジャンがそこで昼寝をする。  ドロシーを中心に二人が入れ替わりに入ってくるので、まるで三人で暮らしているかのように見える。  そこだけ切り取れば、愛おしい思い出だ。  二人が成人し引っ越した数ヵ月後、ドロシーは殺された。  肉は食われ、骨は砕かれ髄液まで啜られていた。  これは協会からの警告だったのだろう。

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