6 / 7

第6話

ハロウィーンの夜は町中がお化けであふれている。 しかも人間まで恐ろしい扮装をして歩き回るという、牧田にとっては悪夢のような一日だ。 譲が来た後、扉の外にそっとお菓子を入れた籠を置いて、何人たりとも(と言うか人でないものが)絶対に部屋に入ってこないようにしたけれど、不安はそれだけじゃない。 満月なのだ、満月。 身体中の血が滾り、性欲が高まる夜なのだ。誰彼構わず襲い掛かることなどあれば(特に女性相手では)大問題になりかねない。 なのに今の状況は何なんだろう。 美人然とした譲が自分の指を舐めている。色白のなめらかな肌に血色の良い唇、真珠のような歯の間からのぞく赤い舌はひたすら扇情的で、指を走る度に甘い痺れが広がって欲望が首をもたげてゆく。 ケガした方の手を柔らかく包む譲の指を握り、その細さにまた欲情した。視線がねっとりと絡みあう。 「お前、男でもいけたんだ?」 冷たい目を細めて低い声で言う譲に、牧田はにっと笑って頷いた。 誘ったのは譲だ、満月の夜だというのにこんな事をする方が悪い。 薄く微笑み、包み込むように唇を重ねた。お互い目は開けたまま挑発しあい、触れるだけのキスを繰り返してゆく。熱い咥内を予感させるぬるりとした粘膜が舌を誘い出す。 どちらの口の中なのかもう分からない位に舌が絡み合い、それぞれの手が好きなように相手の身体を弄りあっていた。ズボンからシャツを引き出し、絡みつく袖を無理矢理引き抜き、ベルトを外しながら愛撫は激しさを増す。ワンルームの壁際に置かれたベッドに倒れ込む頃には二人とも裸になっていた。 仰向けになった牧田の顔の横に手をつき、欲で潤んだ瞳を見詰める譲が腹の上で揺れる剛直に指を沿わせた。 「そんな色っぽい顔して、牧田の身体、熱い。ここも、こんなに脈打って……」 既に先端からとろりと蜜をこぼす熱の脈動が掌越しに伝わってきてぞくぞくする。表面に浮かぶ血管を指の腹でうっとりと撫でさすり上げられると、牧田は腰を揺らしてうめき声を上げた。 「んっ…、っはぁ……」 口を半開きにして潤んだ目で自分を見上げる精悍な顔をうっとりと眺めて、譲は妖艶に微笑んだ。 満月と、譲の唾液の催淫効果で牧田の中心は早く熱を放出したくて堪らず、ぴくぴく震えていた。 「ゆずっ、おまっ、煽んなよ……」 その言葉に眉をひそめた譲を押し返しながら、牧田は筋肉質な身体を捻って上下を入れ替わろうとする。移動する体重に合わせてスプリングが軋み、縺れる身体から伸ばされた脚が音を立てて壁を蹴る。 「何だよ、ちょっと、待てよ」 「お前こそ、大人しくしろよ」 シーツをぐしゃぐしゃに乱し、お互いに相手を押さえつけようともがく長身の男二人には、この部屋のダブルベッドは狭すぎた。 腰に絡みつく脚がベッドの端から飛び出て濃厚になってゆく空気をかき混ぜる。 ようやくマウントポジションを取った譲が乱れた髪をかき上げ、満足げに唇の端を上げて舌なめずりした。 「よーし、いい子だ。ちょっとまってな」 押さえつけたまま片腕を伸ばした譲が、脱ぎ散らかしたズボンのポケットを探る。取り出してきたのはローションとゴムだった。 「ほら、優しくしてやるから、さっさとうつ伏せになれよ」 「は?」 何の話か理解できない、と言うように牧田は眉根を寄せたが、譲が自分の身体をうつ伏せにしようとしたところでようやく気が付いた。 「おい待て、上下が逆じゃないか?」 「何?ハロウィーンのお化けを怖がっているような奴が何言ってる?尻尾を股の間に挟んで犬みたいに怯えやがって」 単なる比喩のつもりだったのに、牧田の目がぎらっと光った。あ、と思った瞬間譲は腕を引かれて正面からベッドに倒れ込んでいた。 そのまま、膝の裏に跨り、片腕で首筋を押えこみながら反対の手を腹の下に差しこんで腰を持ち上げる。 想定していなかった事態に譲は焦ったが、首を押えられて体勢を変えることができない。 「なっ、何するんだ!?」 「今日は満月で、俺は気が立ってるんだ。ごちゃごちゃ言わずにそれ(ローション)をよこせよ」 そのまま返事も聞かずに小袋を奪い取り、歯を使ってねじ切って、冷たいとろみのある液体を、シーツの上でもがく尻に垂らした。

ともだちにシェアしよう!