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第4話

その時だ。 ふいに、背後からするりと胸や腹に巻きつくものがあり、圭一郎は驚き身体を強ばらせた。が、それが柳を思わせる細い腕だと分かると、ふっと力が抜け、自らの手をそこに重ねる。 「……驚いた」 「へへへ」 してやったりと言わんばかりの笑い声が背中に吹きかけられた。ほっそりとした左手が、圭一郎の左胸に移動していく。 「心臓、ばくばくいってるね」 「だろうな」 苦笑を滲ませ、ゆったりとした動作で身体を反転させる。そこにいた裸のリョウを腕のなかに捕らえ、胸元に引き寄せた。 「ただいま」 「ん、おかえり」 リョウはふやけた笑みで圭一郎を見上げていた。 寝起きでとろんとした双眸は柔らかく細まり、涎の跡がとれた口元はなだらかに弧を描いている。圭一郎に抱きしめられ、またシャワーの飛沫を浴びて彼の髪や顔、身体も濡れ、色気がじわりと溶け出しているようだった。 ……妙な気分になりそうで、危険だった。さりげなく彼から視線を外す。 「俺が起こしてしまったか?」 「うん……けーくん、俺の顔見てニヤニヤしてたでしょ?」 「あの時にはもうタヌキだったのか……」 決まりが悪くなり、後頭部をがしがしと掻けば、リョウは愉しげに笑った。 「かわいいね」 「揶揄うな」 「揶揄ってないよ。本当にそう思ってるもん」 上機嫌に言い、リョウは圭一郎の背にべったりと腕を絡みつけた。柳は蔦になり、けれども感触はしっとりと熱い。胸板に擦りつけられた頬と濡れそぼった髪がくすぐったい。圭一郎は口をへの字に曲げながらも、自分より10センチ以上も背が低く華奢な彼の人肌をじっくりと味わうように、抱擁する腕の力を強めた。

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