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第5話

「今日も忙しかった?」 「あぁ。トラブル続きで参った」 「お疲れ様」 リョウは圭一郎から身を離すと、「身体洗った?」と訊ねてくる。いや、とかぶりを振れば、蜂蜜のようにとろりとした甘い笑みで「じゃあ、洗ってあげるね?」ときた。圭一郎の背後にあるシャワーを止めてからラックに置かれたボディーソープをプッシュし、右手のひらに溜まったものを軽く泡立てる。まずはそれで胸や腹に塗りたくられた。 「……明日も早いだろう」 俺のことは構わず、もう一度寝てこいと言ったが、リョウは圭一郎の言葉を聞かなかった。泡まみれの両手で、こちらの素肌を丹念に撫でていく。ぬるぬるとした感触と手のひらのぬくもりが皮膚に沁みていくようだった。 気持ちがいい。が、性的興奮とは別の感覚だった。身体の疲れが癒されるような優しい手つきで、肌が磨かれていった。 あまりの心地よさに、立ったままうとうとしてしまう。睡魔の甘い誘惑に、意識が引きずり込まれていきそうになる。それに耐えるため、圭一郎はリョウに話しかける。 「お前の方はどうだ?」 「……ん? 仕事のこと?」 リョウは手の動きをとめることなく、こちらに視線をあげた。 「変わらずだよ。あ、でも最近ね、付け合せのスープの調理をぜんぶ任せてもらえるようになったんだ」 「あのコンソメスープか?」 「そうそう。たくさんの野菜を細かく切って、大きな鍋でコンソメとか色んな調味料で味付けしたスープと一緒に煮込むんだけど、結構それが大変で……インスタントのスープみたいに、お湯を注ぐだけではい完成! ってわけにはいかないんだよねぇ」 「それは、そうだろうな」 圭一郎は静かに笑った。自分とは違い、リョウは明るい男だ。他愛のない話や仕事の話、ちょっとした愚痴や、滅多にないが深刻な話でさえも、陽気に伝えてくる。どんな話題であっても聞いている側は、まず最初にくすりと笑ってしまう。そうして、彼の話に引き込まれていく。 リョウの人柄だからこそ、できることだ。自分には決して真似できない。自分と彼に類似する点や共通する点は、あまり多くない。だからと言って、性格が不一致だとか価値観に相違があるわけでもなかった。互いが互いに持ち合わせていないものに触れ、その結果、相手に感心し、相手を尊敬し、愛おしく思えたから、こうしてふたりは一緒に居続けていた。

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