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☆5
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『あー。やっぱなぁ・・・・。』
俺が、唯一 身を寄せられそうな場所。
古びているが、なかなか雰囲気のいい
バー。ゲイバーではない(らしい)けど、いわゆる そういう人たちが出会いを求めて集まる
場所だ。
当然ながら、夜営業なので 今は
閉まっている。
直紀と会ったのも、ここ。
俺は、その時 ここでウェイターとして
働いていた。
つきあって すぐに、
一緒に暮らすようになってからは、
辞めてほしいと言われて・・・
ファストフードや牛丼屋のバイトに
変えた。
それなりに うまくやってたつもりだった
のに・・・俺、なんかしたのかな。
したんだろうな・・・。
知らないうちに。
というか・・・今、昼くらいかなぁ。
バーが開くのが6時。
マスターやら店のヤツらが来るのが5時。
・・・それまで どうしよう。
お腹も空いたけど、財布の中は かなり
寂しい。
バイト代が入るまで、1週間あるし
節約しないと、ヤバい。
とりあえずの寝床を確保して・・・
出来れば、面倒見てくれる人を
見つけられたら万々歳なんだけどな。
店先にうずくまって考えに耽っていると
『あれ、ヒナじゃん。』
と、懐かしい声が俺を呼ぶ。
顔を上げると、かつてのウェイター仲間、
真伍(しんご)が俺を見下ろしていた。
『――― !! シン~ッ!!』
地獄で仏に会う、とはこの事か・・・っ!
日照りに雨、
闇夜に提灯、
この際 何でもいい!
正直、少し心細さを感じていた俺は
見知った顔を見て、嬉しくて思わず
力いっぱい 抱きついた。
『はは。なんよ、情けない声 出して。』
『うわ~ん!シン~!』
シンは、俺の背中を ポンポン叩いて
抱き返してくれた。
ああ・・・人の温かさが身に染みるぜ・・・!
『お願い!家 行かせて!』
『んあ?・・・ケンカでもしたん?』
『いや・・・・・・追い出された。』
『はー?何したんよ、ヒナ。』
『分かんない・・・・』
『・・ま、いいや。そういう事なら、
しばらく うちに おってもいいよ。』
『あ・・・ありがとーっっ!シン、好きぃ!』
『俺はネコやから そういうの いらん。』
『俺もネコだもん!でも、好きぃ!』
『はいはい。・・散らかってんよ?うち。』
『全然OKであります!』
『ははは。』
こうして、とりあえずの寝床は確保。
シンに会えて、マジよかった!
あとは、今もシンが働いているバーに
また雇ってもらえるか・・・聞いてみなければ。
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