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☆14
あれから、5日経った。
草壁さんは、毎日やって来るけれど、
挨拶を交わす程度で俺を誘ってくる事はなく、
静かに1人で飲んで、気がついたら
いつの間にか いなくなっている・・・
というパターンが出来上がっていた。
どうやら、俺が その気になるのを
待っているようだ。
―― ま、あんな激しいプレイ・・・、
気分がのらないと 出来ないもんなぁ。
・・・草壁さんが紳士でよかった。
今日も、カウンターに座って、赤ワインを
優雅にたしなんでいる。
草壁さんには悪いけど・・・
あれから誰とも寝てないし、
寝よう、って気にならない。
今日も、お帰り頂かないと・・・。
その時、カランとドアベルが鳴って
新たな客が入ってきたのを知らせる。
『いらっしゃ・・・・』
入り口に背を向けてテーブルを拭いていた
俺は体を捻って、その客の顔を見て・・・
――― 息が止まった。
その人は・・・・、
俺の知ってる穏やかな笑顔で
ゆっくり 近づいてくる。
『・・・陽向(ひなた)。』
『な、直・・紀・・・・。』
『久しぶり。』
―― 最後に見たのは、
怒った顔だったから・・・。
こんな優しい笑顔で来られると
切ないような、苦しいような
でも、嬉しいような・・・。
なんだかドキドキしてしまう。
『ハイボールもらえるかな。』
『・・・・・・・・・』
『陽向?』
『・・・・あっ、はいっ。只今。』
あんな別れ方をしたとは思えないくらい
自然な態度で、直紀はカウンターではなく
奥のテーブル席へと歩いて行った。
つい、直紀の姿を目で追ってしまっている
自分がいて。
『はぁ・・・・・』
まだ、ドキドキしてる。
まさか会えるなんて思ってなかった。
来てくれるなんて・・・・。
『ヒナちゃん。』
『・・・・・・あ。は、はい!』
足音もなく、側まで来ていた草壁さんに、
肩を叩かれて、はっと我にかえる。
『あの人は?』
『え・・・・・あ、あの・・・・・』
『元カレ?』
『え・・・?あ、はい・・・あ、いや・・・・』
『ふぅん・・・・。』
急に声のトーンが下がった気がして、
草壁さんを見ると、草壁さんは
なにやら難しい顔をして、ジーっと
直紀を見つめていた。
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