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☆16
『今日は、お店が終わるまでいるから。』
そう言って、草壁さんはカウンターの
自分の席に戻っていった。
『ヒナ。早く持ってって。』
『う・・・は、はい。』
―― どうしよう。行きたくない。
キョロキョロ辺りを見回すと、ちょうど
シンがこっちに歩いてきたので、お盆を
渡そうと目配せをする。
『なに?』
『これ、持ってって。6番。』
『いいけど・・・って!えー?!
あれ、直紀さんじゃん!』
『いいから、早く。』
『イヤだよ!ここはヒナやろ!』
『でも・・・・』
『いいから!
待ってるよ、直紀さん。ヒナを。』
『んな訳ない・・・・!』
お盆を持ったまま、揉めている俺たちに
マスターの怒りの声が飛んでくる。
『ゴホン!早よ、行かんかい!
給料 払わんぞ、ヒナ!』
『は、はーい!』
仕方なく、直紀の座る席へと向かい、
『お待たせしました』
と、極力 直紀の方は見ないようにして
それでも営業スマイルを顔に貼り付け
ハイボールとナッツが入った
カクテルグラスをテーブルに置く。
手を引っ込めようとした、その時・・・
突然、直紀の手が俺の手を掴んできた。
『――――っ!』
ビックリして咄嗟に振り払おうと
したけど・・・思いのほか、強く握られていて
手が離れる事はなかった。
『あ・・・ごめん。驚かせて。
でも・・・この手首、どうしたの?』
―― 手首?
言われるままに、自分の手首を見る。
『あ・・・・・・・。』
手首にぐるりと一周、残る痕。
草壁さんと寝た・・・あの時の縛られた、痕。
うっすらとしか残っていないのに
気づかれてしまったらしい。
『こ、これは・・・・』
『無理やり?それとも・・・合意のうえ?』
『・・・・・・え・・・・・えと・・・・』
どうしよう・・・。
なんて言えば・・・。
あんなプレイしたなんて、
直紀に・・・直紀に言うの?
・・・・・って
別にいいのか。
もう・・・・関係ないんだし。
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