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第6話
今日の体育はバスケットボール。
身長が160ちょっとしかない僕には、まったく縁のないスポーツといっていいだろう。
5組、6組をそれぞれ2つのチームにわけて、計4チームてリーグ戦をする。
2チームが対戦して、残った2チームのうち1つは審判、もう1つは見学だ。
僕のチームは最初は見学することとなった。
初戦は5組Aチーム 対 6組Aチーム
ちなみに6組のAチームには、僕の急上昇ワードに絶賛ランクイン中の新井がいる。
あ、始まった。
体育館の隅で体操座りをして、試合の行く末をじっと見守る。
キュッキュッと、シューズが床に擦れる音が響く。
5組の得点。
自分のクラスが有利なのは嬉しい気もするが、何せ今は新井が気になってしかたがない。
ダンッダンッ‥‥‥‥
新井が味方からボールを受けとる。
ドリブルでゴールに近づく。
が、すぐに敵が追い付いてブロック。
これじゃあ、シュートを打っても弾かれるだけかなぁ‥‥。
すっごく、かっこよく決めたそうな顔してるけど。
すると彼はクルリとUターンして、ゴールから充分に離れたところまで移動する。
そして。
フワッと飛び上がると、空中で、手首のスナップを効かせながらボールを放つ。
慌てて駆けつけ、弾こうとした奴がいたが、間に合わなかった。
ボールは大きな弧を描き、ゴールにストンッと入った。
す、スリーポイントシュート。
そんなに涼しい顔でできるものなのか‥‥?
やっぱり、かっこいい。
これだけ何でも揃ってるんだから、女子が放っておくはずがない。
現に、入学して2カ月だと言うのに、女子に告白されまくり、二度三度、女子と一緒に帰っているところを見たことがある。
いつも、違う女の子を連れていた気がする。
やりちん、ってやつなのかな。
女の子だけじゃ飽きたらず、男の僕にまで手を出したのか。
───────やりちんだ!
あいつは、やりちんなんだ!きっと。
僕に絡んできたのは、ただのきまぐれ。
僕は、偶然、溜まっていてエッチな気分だった彼と遭遇しただけ。
たぶん、相手は誰でも良かったんだろう。
まぁ、最低限、勃起する相手でないと意味がないけど。
僕は、それに値したのだろうか。
そう考えると、ちょっと嬉しいかも?
「──────か、吉岡!」
「へぇ?!な、何‥‥?」
び、びっくりした。
声をかけてきたのは、朝に話しかけてきた、ノリの良い男子の一人、吉田だった。
出席番号が近く、入学当初は席が前後だったこともあり、気さくに話しかけてくれる。
「次、俺らの番。早く行くぞ」
いつのまにか、前の試合は終わっていて、次の試合が始まる。
僕も、頑張って一本くらいシュート決めたいなぁ。なんて。
俺は、試合中ちょこまかと動き回り、ボールを持とうとするが、なかなかうまく行かない。
諦めかけていたところで、パスが回ってきた。
ゴールからは少し遠かったので、ドリブルして近づく。
すると、フワッと視界が宙に浮いた。
あんまり運動しないのに、急に動いたりしたからかなぁ。
僕は足を滑らせ、尻餅をつきそうになる。
「危ねっ!」
咄嗟に出した手は空を切り、何か、床とは違う何かに受け止められる。
え?何が起こった?
上を見上げると、審判をしていた新井が僕を抱きとめている。
「ふぅー‥‥‥‥よかった。」
にっこりと微笑みかけられ、ドキドキする。
しょ、少女漫画みたいな展開だなぁ‥‥。
僕がドキドキしすぎて何も言えずにいると、
「体育館、滑りやすいから気を付けろよ?」
そう言って、頭をポンポンしてから、離れていく。
僕もずっとその場につっ立っている訳にもいかず、退こうとすると。
イタッ。
足に痛みが走る。あーあ。グネったのかな?ダサイなぁ、僕。
「すみません、足痛いので保健室に行ってきます。」
大丈夫かー?と先生も心配してくれ、保健室行きを許してくれた。
右足を庇いながらフラフラと体育館を出る。なんか、酔っぱらってるみたいな歩き方。
「あ、俺が連れていきますよ。」
新井が審判を他のやつに代わってもらい、肩を貸してくれる。
新井の匂い。汗かいてるから、この前とは少し違う。
でも、嫌いじゃないかも。
保健室のドアをノックして、中に入る。
「失礼しまーす‥‥‥‥?
先生、どっか行ってるみたい。
どーする?そこで座っとくか」
「ん、ありがとう。
でも、新井はもう戻った方がいいんじゃ‥‥‥‥」
「先生来るまでは‥‥な。」
新井は僕のすぐ隣に腰かける。
新井の声が近い。
なんか、どうしよう、緊張してきた。
「吉岡‥‥」
新井の顔が、近づいてくる。
「あ、新井‥‥?なになになにすん‥‥」
椅子についた手が重なる。
唇同士の距離が、30センチ、20,10‥‥‥‥
─────────ガラッ
「吉岡くん、捻挫したって聞いて戻ってきたけど大丈夫ー?」
突然のことで、新井も僕もビックリ。
ハッと我に帰って、いそいそと体を離す。
ほ、保健室の先生戻ってきた!!
「あぁ‥‥‥‥えっと、じゃ、先生も来たことだし、僕はもう戻りますね。
吉岡、オダイジニー」
何で最後、カタコトなんだよ!わかりやすいな、おい!!
次会うとき、気不味いなぁ。
いっそ、あのままキス‥‥してたら。
すんでのところで戻ってきた保健室の先生が、ちょっぴり、うらめしい
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