7 / 10
第7話
結局、俺はその授業の終わりまで保健室で火照ったからだをもて余す羽目になった。
あんなイケメンに迫られたら、誰だってドキドキするだろ!
なんて、誰に言い訳してんだ?
ほんの少しだけ触れた唇を、指でなぞってみる。リップかなんか塗っとけば良かったかなぁ‥‥‥‥。
一生、唇洗わないでおこうとか、アイドルと握手した女の子みたいなセリフ。
何故、こんなに乙女思考なんですか僕は。
悶々とした頭で、足を引きずりながら更衣教室へ戻る。
「お、大丈夫だったか~?お姫様ぁ」
吉田らが心配してくれて、その日は一日中、肩を貸してくれたり、重いものは持ってくれたりと、介抱される俺が逆に困ってしまうくらいの良い働きだった。
新井といい、吉田といい、今日はやたらとイケメンに絡まれるな。
俺、なんかしたか?ついこの前まで毎日ボッチ飯だったのに。
変なの。
しかし、俺のボッチ飯卒業の期待は虚しく砕け、バスケがあった木曜日から、金曜日、土曜日、週が開けて月、火曜日と、また誰とも話さない日々が続いた。
そして、現在、水曜日の昼休み。
次の授業は数学だ。やだなぁ、数学できないんだよなぁ‥‥‥‥。
だからこそ、熱心に聴くべきなのだろうが、人間、できないことが続くと冷めてくるものだ。
そういうわけで、俺は数学の授業に出たくない。
なので先週と同様、トイレに逃げ込もうと思う。
この前はドSイケメンに遭遇して散々な目にあったが、今回こそ、平穏無事にサボってやる!
優等生だって、たまには悪さしたくなるんだよなぁ
例のドSイケメンのクラスは古典だっけか。
あの山中とかいうおっちゃん、授業はわかりにくいのに定期考査はやたら難しいからなぁ‥‥‥‥。
あぁ、やだやだ。
五時間目の授業が始まって10分後、俺は腹痛を理由にトイレへ駆け込む。
難無く個室の便座に腰を落ち着けた俺は、ホッとため息をつく。
と、そのとき。
─────────コンコン、
トイレの個室はまだ数室空いているはず。
なぜ、ノックしてくるんだ‥‥?
答えはもう、わかっていた。
「吉岡ぁ、いるんだろ?同じ曜日、同じ時間になんて‥‥‥‥‥‥
期待してんの?前みたいなコト。」
ともだちにシェアしよう!