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第95話

「……ミク、大丈夫か」 先に沈黙を破ったのは俺だった。 「坊っちゃんこそ大丈夫ですか?」 ミクは下を向いたまま脱がされたビキニを俺に履かせてくれた。 「俺は大丈夫だ。こんなのは野良犬に噛まれたと思って忘れることにする」 「何言ってるんですか、坊っちゃん。……野良犬に噛まれたら痛いですし、辛いです。坊っちゃんは今我慢してます!!」 脱がされたジーンズをんしょんしょ履かせてくれるミクはいつものミクだった。 でも今にも泣きそうな表情で、俺は胸が痛かった。 「帰りましょう、坊っちゃん。お話はお屋敷に戻ってからにしましょう」 俺が上手く歩けないのには、ミクが俺を補助して歩いてくれた。 あぁ、そうだ。 「窓ガラスの修理代金は徳川財閥宛に請求してくれ」 受付の老婆にそう言い残して、俺は禍々しいラブホテルをあとにした。

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