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8.
「…弱い酒って、ウイスキーだったんですね」
頬杖をついて横を向いた瞬間、するりと絡む視線。
反射的に、息を詰めた。
―――音が、全て消える。
絞った照明が彼の潤んだ瞳を煌めかせ、ままならくなった呼吸。綺麗な弧を描く宝石から目が離せない。
吸い寄せられるように、手を伸ばした。
「…ハル、さん」
駄目だ、と頭のどこかで警鐘が鳴っているのに。
まるで何かに操られているとしか思えない。
滑らかな頬を包んだ瞬間、カランと高い音が響いて。
夢から覚めたような心地の中、慌てて距離を取る。火照った手のひらでグラスを覆い、見つめるのは溶けた氷。
「ふふ、細田くんも……同じかお、するんだ…」
ひそりと耳朶に忍び込むのは、普段の彼からは聞いたこともないような甘い囁き。
意味を問う間もなく、腰骨のあたりに小さな衝撃が走った。とん、とぶつかるのは指先だろうか。
「溜まってんだろ…?」
―――ぬいてやるよ、
唇の動きだけで象られた言葉を認識して、ごくりと唾を飲み込んだ。
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