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29.
招き入れられた室内の奥には進まず、入口で立ち止まる。
「ん?どした?」
首を傾げる彼は、こんな風に笑う人だったろうか。小さな引っ掛かりを覚えてその表情を凝視する。
「な、なんだよ…」
「…痩せました?」
一瞬、僅かに見開かれた瞳。ぱっと逸らすその仕草が答えを告げていて。
「……そういうの良いから、ほら早く」
「ハルさん、あの…やっぱり、俺―――」
手を引く彼の背中に投げかけた言葉は途中で終わる。
「…分かった。他の奴んとこ行く」
身を翻したところを慌てて捕まえた。掴んだ手首は記憶よりも幾分か細くなっていて、思わず舌打ちをひとつ。
「あんた…ほんと、タチ悪い」
目を細めてこちらを見やる彼は、どこまで分かった上で動いているのか全く読めなくて。一度、深呼吸をして俯く。
「…ベッド、行きましょう」
再び上げた面 の、表情は上手く作れていただろうか。
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