42 / 89

42.

さすがにやり過ぎた、と反省の海に沈む。 強請られるままに振舞ってしまったことを恥ずかしく思いながら、やはり年の差を感じて落ち込んだ。 『っ…ハル、さん……』 『そう、じゃない…よな?』 『……橋本、さん』 告げた途端、ふわりと蕩けるように変わった表情が忘れられない。 「…これからも、呼びます」 たとえ、もうあの表情が見られなくても。 「今日だけ、なんて…許してあげませんから」 布団にくるまって寝息を立てる、隣の温もり。見下ろしながらぽつりと呟いた。 しばらく眺めるうちに、自然と目が行くのは艶やかな唇。薄い自分のそれとは対照的に、柔らかく熟れた果実のようで。 (…そういや、キスしてねぇな) 口で慰めてもらった時は、それもそうかと納得したけれど。回数を重ねても変わることは無く。まあ、セフレには必要ないのかもしれないと思い直した。 「……え」 見つめる先の、閉じられた瞳。その隙間から流れる雫は――― 思わず指で拭うと、微かに身じろぐ。断片的に聞こえる謝罪に愕然とした。 寝ているとはいえ、泣きながら謝る…なんて。 放っておけば良いだけの話だ。でも、妙に気になってしまう。 (誕生日……か) そっと前髪を寄せると、皺の寄る眉間が顕になった。小さくため息をついて、考えを巡らせる。 この人の過去を聞けそうな相手は、1人しか居ない。

ともだちにシェアしよう!