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「すいません、お仕事前なのに…」 「いや、気にしないで」 柔らかく微笑むルイさんは、やっぱりとても綺麗な人で。少し早まる動悸を感じながら口を開く。 「…ハルさんの、ことなんですけど」 「ハル…?」 首を傾げる彼に頷いてから、どう切り出すかと思案した。この関係を詳しく話す気にはなれず、結局当たり障りのない言葉を選んで続ける。 「誕生日について、何か知ってることはありませんか?」 誕生日、と呟いて目を伏せる姿に答えを見い出してしまった。ゆらりと上げられた視線が頼りなさげに漂う。 「…ハルと出会ったのは、ちょうど…そう、大学3年生の頃。友達に誘われて、短大の文化祭を見に行った時に有志のライブで見かけたんだ」 1年生にも関わらず迫力のあるステージ。技術面もさることながら、何よりその真っ直ぐに澄んだ瞳が輝いていたと。 「話してみたら思った通りの人柄で…誘ってくれた友達に感謝したよ。それから今まで長い付き合いになるかな」 ふ、と遠い目をしたルイさんはアイスティーを口に含んで更に続ける。 「…当時、彼には付き合っている相手が居てね。1つ上の……男性だった」 小さく息を呑む。何度も寝た仲で分かっていたとはいえ、過去の話として聞かされる同性の存在は心の水面(みなも)に波紋を広げた。 「俺は相手に数回会ったことがあるけど…正直あまり良い人だとは思えなくて。愛されている感じがしなかったし、心配はしてたんだ」 もちろん何度も進言した。しかしその度に『好きで居られることが幸せだから』と仄かに笑って告げるだけだったという。 何故だか眉を潜めそうになって、思わず拳を握る。深く息を吐きながら落ち着こうと試みた。そんな俺を見てどう思ったのか、やけに凪いだ声音で紡がれる顛末。 「その年の…ハルの誕生日。必然と言うべきか、彼は酷い精神状態に陥った。それこそ――…死んでしまうんじゃないかと、思うほど」 何があったのか、自分の口から簡単に話して良いことではない。君達がどんな関係性かを詮索するのも無粋だ、と。 でも。 「きっと……救える」 先ほどまでと一転して、温かみのある言葉。穏やかな眼差しを受け止めて瞬く。 好きだとか嫌いだとか、まだそこまでの感情には成り得ていないけれど。知りたいと感じるほどには興味がある。 空いている日付を思い浮かべながら、目の前の相手に頭を下げた。

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