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「…体調、どうですか?」 部屋に入るなり上着を脱ぎ捨てた彼に問う。振り返って淡く笑う表情が、以前にも増して艶を纏っていた。 「大丈夫だからここに居るんだろ」 11月に入って冷える屋外と裏腹に、ほどよく暖められた室内。ため息さえも熱を帯びる気がした。 「準備してあるから、お好きにどーぞ」 ベッドの上で待機する彼は、ふいと顔を逸らす。その仕草にどこか憤りを感じてしまう。ルイさんにあんな話を聞いた後だからか、全ての行動が繋がるような気がして。 「…俺は、代わりですか」 どこか似ていると言っていたような。目の前の彼が酷い仕打ちを受けながら、それでも尚忘れられなかった人に。重ねられて腹が立つ自分が理解できなくて、またイライラする。 「ん?何か言った?」 こちらを振り仰ぐ彼の首根っこを押さえてうつ伏せにさせ、仄暗く笑う。歪む口角を感じながらサイドテーブルの引き出しを開けた。 「……別に、良いけどな」 呟いた途端つきりと痛む感覚に舌打ちして、取り出すのはいわゆる大人の玩具。苛立ち任せに突っ込めばいとも容易く飲み込まれて行く。 あれから15分。か細い喘ぎに泣きが入り始めた頃、ようやく手を離した。未だに動き続ける玩具を無感動に眺める。 「な、っ…ん、で……」 「はい?」 うつ伏せの口元はシーツに埋まって、言葉が聞き取りづらい。高く上げられた腰を指先で辿れば玩具もろともびくりと震える。 「きょ、う…そんな、じらす…の」 濡れた瞳で振り返りざまに睨まれ、元気になる下半身と反対に冷静さを取り戻す思考。視線が合っただけで機嫌が浮上する己の単純さに苦笑しながら、救済策をぶら下げることにした。 「上手に強請れたら、あげますよ」 きゅんと締まった蕾の縁を撫でれば喉から漏れるのは子猫のような高い声。浅い呼吸を繰り返しながら逡巡する姿に、もう一押しと追い打ちをかける。 「このままでも良いなら放っておきますけど……橋本さん?」 「っ、ひ……あ、ぁ…!」 耳元で囁くと、むずかるように振られる首筋。舌を這わせながら様子を窺う。やがてそろりと向けられた双眸に、今は俺だけが映っていることに堪らなく満ち足りた気分になって。 「…っも、ほし…い、」 下がった眉を撫でながら優しく見つめれば、とろりと溶けた表情で小さく口に乗せる。 「ん…いれ、て………ほそだ、の」 「…良くできました」 汗ばんだ額に唇を寄せて、玩具を引き抜く。そのまま床に放り投げると、静かな振動音はカーペットに吸い込まれて―――消えた。

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