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気持ち悪いと言われておきながら、彼との関係を断ち切るという考えがない自分を笑った。 ただ、もうそろそろお払い箱かという雰囲気で。 (……用済みかぁ) こちらの意志などお構い無し。一見、傍若無人に思えるが、その(じつ)相手を気遣う面も持ち合わせている。 狡い、と。言い出せばキリがなく、また今に始まったことでもない。 最後ぐらいは思い出を作らせてもらっても罰は当たらないだろう。そう自己完結して、部屋の掃除を再開した。 「こんにちは」 「ん、上がって」 寒さに身を屈める彼を部屋に招き入れ、テレビを付ける。途端に流れ出す音の洪水。 「何か飲む?」 「あ、じゃあお願いします」 てっきりすぐ抱かれるものだと思っていたから、社交辞令で聞いた質問だったのに。外がかなり寒かったのだろう。 「どーぞ。インスタントだけど」 「頂きます」 普段愛飲しているコーヒー。ミルクと砂糖を置くも、そのまま飲み始めた細田に驚く。 「…ブラック平気なんだ」 「ああ、俺…甘いの苦手で」 「へえ…」 「…何ですか?」 「んーん、別に」 苦笑いを浮かべる彼のことを、今さら少し知れた気がして。嬉しさに緩む口元を誤魔化すようにコーヒーを啜った。 「もうすぐクリスマスか」 「毎年騒がしいですね」 テレビも特集一色。今年は寒い冬になるらしく、ホワイトクリスマスの期待が高まっているそうで。 「…当日は、仕事ですか?」 「まあ稼ぎ時だからなぁ…」 テレビ画面を見ながら考えなしに答えた俺は、隣の様子を窺うこともなかった。コトリとカップを置く音がして、気付けば膝立ちの彼が目の前に。 「……ああ、する?ベッド―――」 「橋本さん」 開く唇を指で辿る、その感触が切なさを孕んでいて。少し低い位置にある瞳に全身を絡め取られた。 「…すみません。ベッド、行きましょうか」 何かを言いかけて、首を振った彼が立ち上がる。差し出された手のひら越しに見えるのは、ふたつのマグカップ。 ブラックで苦いコーヒー。砂糖を入れた甘いコーヒー。まるで俺達のようだと嘆息して、その手を取った。 温かい手のひらを感じながら、飲み物を出して良かったかなとぼんやり考える。 ふわりと漂う思考は、扉の閉まる音に散った。

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