51 / 89

51.

「…だからってマジで来ちゃうんですね」 「あ?」 マフラーに顔を半分埋めた彼に睨まれ、思わず肩を竦める。急いで来てくれたのか、コートの下はスーツのままだ。 「…つか、お前の家じゃできねえだろ」 どうする、と眼差しで問われて。いつもの俺ならホテルへ向かうところだ。でも。 「……エッチしに来たんですか?」 ポケットの両手を引っ張り出して、握る。ただそれだけの動作なのに、綺麗な猫目がこぼれ落ちそうな程に見開かれて。 「イブだからって世間と同じことしなくても良いでしょう?」 「そ…っ、え………て、いうより、だって俺ら」 マフラー越しに彼の口を押さえ込む。自分達の関係を改めて聞かされたくはなかった。 もう、認めてしまおう。 お店にとって大事な日なのに。稼ぎ頭の称号を投げ打ってまで、俺の我儘に付き合ってくれる。そんな人を好きにならない方がおかしいというものだ。 「話したいこと、たくさんあるんです」 「……おれ、も」 「酒とつまみ買って、公園で天体観測。どうですか?」 返事の代わりに、ぎゅっと握られる手。 家から毛布を持ってこようと考えながら、ゆっくり歩き出した。

ともだちにシェアしよう!