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3月も半ばになった。
橋本さんから過去の話を聞いて、考えたことは山ほどある。
高田という元恋人から受けた扱い。
金に困っていた彼は、友達からの紹介で楽に稼ぐ方法を知りえたという。それは、風俗と呼ぶにも満たないような、そもそも仕事にすらなり得ないことで。いわば犯罪スレスレの――…
誕生日に呼び出した橋本さんを、何人もの男達に好きなようにさせて大金をせしめるというものだった。騙し討ちであるから、当然1回きりしか使えない手段ではあったものの、高田を信用していた彼は相当に絶望した、と。
さらに。あろうことか、気絶した彼の指を拝借し、借金を肩代わりするという借用書に拇印を押した。そのせいで橋本さんは、返済のためにホストという職を選ばざるを得なかったというわけだ。
目覚めた彼に、言い放った言葉が。
[セフレだと思っていた]
と。無情に閉まったホテルの扉を、いったいどんな気持ちで見つめていたのだろうか。
ぐっと拳を握る。今のままでは、彼らとそう大差ない。同じ立ち位置に甘んじるのは御免だ。
まずはセフレから脱却する。そうしないと、気持ちを伝える権利もないだろうから。
息を吸って、メッセージアプリを立ち上げた。
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