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67.
あれから、何回か弘人に抱かれた。
初めは気持ち良かったその行為も、回を重ねるごとに苦痛が増して。痛むのは心の奥深く。
―――虚しい。
ただ、それだけだった。
何故だろうと考えて行き着いた、彼の存在。もう誤魔化しきれないほどに大きな存在になっている。
優しく抱かれることを。あの声で呼ばれた時の胸の高まりを。
知ってしまったからには戻れない。
「どうしてくれんだよ…」
自嘲気味に呟いて、笑う。
メッセージアプリが受信を告げたのは、そんな時だった。
「―――で、話って?」
改まって呼び出しをかけてきた目の前の男を見やる。浮かない顔と声のトーンだけで分かってしまう、ああきっとこれは。
「…この後、仕事なんだわ」
仕事があるのは本当。だけれど時間の猶予もある。時計を気にする素振りを見せれば、案の定細田は口を開いた。
「じゃあ……単刀直入に言います。関係を、終わりにしましょう」
ほら、悪い話はさっさと済ませてしまうに限る。
意志の宿った強い瞳、声音。それも[終わりにしませんか]ではなく断定系で。
「は……そんなことか」
精一杯の虚勢を張ってみせれば、彼はふと笑った。
「…例の…元の、人とも。関係がありますよね」
(だから、だから…そいつだけで満足してるだろうって?)
ぐ、と拳を握って深呼吸した。落ち着け。
「分かった。まあ楽しかったよ」
動揺を悟られまいと頷き、机に諭吉を載せる。立ち上がれば焦った様子の相手に腕を掴まれ、思わずびくりと固まってしまう。触れ合った箇所からじんわりと伝わる熱が怖くて、…愛おしくて。何かを考えるより先に振り払っていた。
「橋本さん、待っ「じゃあな」………、!」
これ以上顔を合わせていたら、みっともなくすがりついてしまいそうだった。乱暴に扉を開け、転がり出るように店を後にする。
別れ際、垣間見えた懇願の表情が頭から離れない。は、と息を切らして細い路地に座り込む。
期待していたわけじゃない。それでも、追ってくる気配が無かったことに。本当の終わりを感じて―――ただ項垂れた。
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