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73.
あの公園で。みっともなく取り乱した俺を落ち着かせた弘人は、何も聞かず家まで送り返してくれた。
気遣いに感謝こそすれ、それ以上の感情が湧いてこないことに自分が一番驚いている。
昔なら、もっと喜んで――いや、感動すらしていたはずなのに。
けれど、その気持ちの変化をもう不思議と思わなくなっていた。だって、きっと。
(細田……)
良くも悪くもその人の影響であることは分かったのだから。
2日後。修理に出していた携帯を引き取り、家に戻ってきた。誰もいない、ひとりの部屋で真っ暗な画面と対峙する。
すう、と深呼吸して手を掛けた。昔から使っているパスワードを打ち込めばなんてことは無い、シンプルな待受画面に切り替わって。拍子抜けするも、これからが本番。
アドレス帳を立ち上げて、スライドする指が止まる。
(…いた)
『細田』
その文字を目にした瞬間、ズキリと痛みを訴える後頭部。ああ――そういえば、あの日も。見ていた気がする。確証はないけれど、漠然とそう感じた。
頭痛が治まる頃、次いで立ち上げたのはメッセージアプリ。あの男とどんな会話をしていたのか。
「え……な、ん…………っ、」
最新の日付から遡れば、言葉少なに会話する2人の姿が浮かんできた。ただの友達にしてはやりとりが少なすぎる、恋人にしては素っ気なさすぎる。
(……まさか)
思い当たる可能性に至って口元を覆う。そんな俺を嘲笑うかのように、メッセージはひとつの事実を示唆していた。
『今日、19時にいつものホテルで』
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