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伝えるつもりはなかった。
ただ、目の前の橋本さんがあまりにも憔悴しきっていたから。
体の関係を持っていた男が、恋人ではなかったことなのか。それとも自分にセフレという存在がいたという事実に対することなのか。どちらにせよ酷く落ち込んでいた。
あの人と元に戻って幸せなら、それでいい。ただの性欲処理の関係だったと言い切って安心してもらえれば。
そう思ってわざと冷たく突き放したのに―――
彼と付き合ってはいないと言う。それどころか、どこか懇願するような視線を受けてしまって。
『…もし、あの人と元に戻ったなら。一生セフレでも良いぐらいには思ってましたけど』
『あなたを恋人にしたい』
『今までとは違う形で、傍に居てくれませんか』
狡い言い方をした。選択肢を与えているようで、その実どちらを取っても離れられないような。
自分の器は思ったよりも小さくて、まだ子供なのだと――あの人と一緒にいて何度思い知らされたか。
(いつか追いつけるその日まで、隣にいてほしい)
喉元まで出かかったそれを告げてしまうのはルール違反な気がして踏みとどまった。今まで散々無理を強いてきたのだから、どうするか選ぶのは彼自身だ。どんな答えが返ってこようと受け入れる準備はできている。
以前、高田と同じ空気を纏っていると言われたことがあった。極悪非道なあいつとは違うと思いたかったけれど、案外同類なのかもしれない。
彼を、手放せないのだから。
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