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81.
「あの日、お前に……セフレ解消しようって、言われて。ヤケ酒…したんだよ」
ゆっくりこちらに戻ってきた視線はまだ頼りなさげに揺れている。
「落ちたのは、ほんと、単純に酔ってたから。…で、直前まで考えてたんだけど」
お前の事、と。付け足せば、僅かに光の灯る紫黒の瞳。続く言葉で、どうか信じてほしい。
「……いちばん大事に思ってる記憶がなくなることが多いって、医者が言ってた」
「そ、れって―――…」
さかんに瞬く細田へ頷いて、微笑んだ。
「この前の、返事。」
緊張で喉が痛い。早鐘を打つ心臓がうるさくて、他の音が何も聞こえなくなる。
「…弘人は家に入れてない。だから、……だから」
―――…わかって、
思いがけず切ない響きになってしまった懇願。正しく汲み取ってくれただろうか、と少し不安に思って顔色を窺う。
これが今の俺に言える精一杯だった。
明確な好意を口にしたら、この幸せが逃げてしまいそうで。
それぐらい、[幸せ]は自分にとって不安定で形のないものだった。柔らかくつかんだそれを離すまいと必死にしがみつく。
互いに逸らさない視線が絡んで、そして、緩やかに縮まった。距離がゼロになってからしばらく。ふわりと舞うような酩酊感に酔いしれていた。
「大事に…します、から」
離れて尚も近いその瞳は、もう揺らいでいなかった。随分と力の籠った宣誓だな、と笑うにはあまりに真剣すぎて。
「…ん。期待してる」
いつか、躊躇いなく。『好きだ』と言える日が来るのだろうか。伝えても壊れない、そんな幸せがあるのだと実感できる時が―――。
至近距離の首筋に、そっと腕を回すことで応えた。
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