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*83.
「お前…去年もあんなだったし、別に、俺のなんていらねえかもって思ったら……なんか」
たどたどしく紡ぐ彼は、そこで言葉に詰まった。
(……嗚呼、本当に。)
この人は、馬鹿だ。一見すると豪快な性格に見えて、それはあくまで仮の姿だとでも言うのだろうか。作られた枠に嵌り演じている、本性はずっと繊細で。
「橋本さんから貰えるなら、なんだって嬉しいですよ。俺は」
愛おしい。隠そうともせずに押し出した気持ちが伝わったのか、受け取りきれずに目を白黒させる姿は庇護欲をそそる以外の何物でもなく。
「……やるよ」
「え?」
「据え膳の賞味期限、今日までだから。…プレゼント、に」
突き出された手を恭しく取って、微笑んだ。
シャワーを浴びたということは、きっと。そう受け取っても良いのだと解釈する。
「残すなよ?」
「美味しくいただきます」
片目を眇める彼に笑って、抱き上げた。
宣言通り、余すところなく愛撫を施した肌は薄桃色に彩られて。吸い付くような手触りが堪らない。
「っ、も……ほそ、だ…」
「もうこんなになっちゃって…どうするんですか」
ぐずぐずに溶けた瞳がゆるりと細まる。言葉よりも雄弁に語るその仕草で、今までならば満足していた。
けれど。
「欲しかったら、この口で強請ってください。……俺だけに」
艶やかな唇を指で押さえつける。ふに、と弄べば意のままに形を変えて。
「で、も…」
お前だけなのに、と非難する心の声が聞こえてきそうだ。寄った眉根に視線をやって、笑う。
「他に居ないって分かってても、言わせたくて」
俺って結構独占欲強かったみたい、と。付け足して顔色を窺う。
「準備、してる時…何ともなかったのに、…腕、触られただけで……」
切実な訴えを受け、嗚呼なるほどと納得する。中途半端に昂らされた体が反応してしまったということか。
「…だから、お前、じゃなきゃ、……っ」
ぽろりと目尻を伝う雫を目に留めて、息を吐いた。この熱を逃がさなければ頭が沸騰してどうにかなってしまいそうだ。
「…わかりました」
「ん、」
伸ばされた手を取って、額を合わせる。精一杯の優しさを総動員させなければと気を引き締めた。
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