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8月になり、実家へ帰省するというルイ。芹生くんもついて行くというのだから、これは確実に挨拶のパターンだろう。 近寄ってくる彼を見つけて、ドアロックを解除する。 「おはよう、楓くん」 「あ…おはようございます」 助手席のルイがドアを開く、その奥。運転席でひらりと手を振った。 「すみません、空港まで送ってもらうなんて…」 「助かったね」 当初は電車の予定だった2人を送って行くと申し出たのは自分だ。近況も聞きたかったし、なにより退屈すぎる一人の時間を持て余していたから。 「いーよ、気にすんなって。狭くてごめんな」 「あれ…楓くん、荷物それだけ?」 会話する2人を眺めて、つい口から零れ落ちたのは。 「いいなあ、旅行か……」 ウィンカーを操作しながらぼそりと独りごちる。 「細田くんと行けば?就活中とはいえ、夏休みでしょう」 隣のルイが宥めようと声をかけてくるが、むしろ逆効果だ。現状を改めてつきつけられ、黙る(のち)に出した声は不貞腐れた響きになってしまった。 「……今、インターンらしくて。会えてない」 そう。ここ数週間、細田と連絡が取れず。 ため息を飲み込みつつ、車線を変更する。 「録音しておけば良かったなあ」 「は!?…ここで降りるか?」 「ふふ…細田のこと、大好きなんですね。ハルさん」 物珍しそうに呟いたルイへ噛み付くが、きっと耳が赤くなっているだろうことは容易に想像がつく。ちらりとバックミラーを覗けば―――芹生くんの、たまらずこぼしたといわんばかりの微笑みが優しくてますます顔が熱くなった。 「あーもう、俺のことは良いんだよ!」 「そんなに心配しなくてもちゃんと楽しんで来るから」 自分と細田のことにかまけていないで、しっかり挨拶しろよという意図は通じたらしい。先を汲み取ったルイのセリフに、勢いを削がれて笑った。 空港まで、あと少し。

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