85 / 89

85.

8月下旬。 認めたくないが、これはさすがに。 (…恋人、不足?) 脳内にふと浮かんだその言葉を慌てて打ち消した。有り得ないだろ、キャラ的な問題として。 でも。 つい1週間ほど前、ルイと芹生くんを空港まで送っていった車内。仲睦まじく話す2人を見て、少し羨ましくなってしまった自分がいたのも事実で。 ぐるぐると悩んだ末、メッセージアプリを開く。 『あいたい』 あっ、と声を上げるも遅かった。変換未遂のまま送信されてしまったその単語。穴が開くほど眺めても、変わることはない。 忙しければ返事が遅くなるだろうし、後は為すがままだ。ため息をついてベッドに倒れ込む。 『今から行きます』 軽快な受信音が返信を告げた。それは間違いなく、メッセージを送った相手から。 「……は、」 忙しいとばかり思っていた。早すぎる返答に、しばらく放心状態で画面を見つめる。 『家いますよね?』 忘れていたかのように続けて問われ、はっと我に返る。同時に冷静さを取り戻して笑った。先にその確認からだろう、普通は。 もしかして、向こうも同じように思ってくれていた―――…? 少しでも早く、長く、会いたいと。 『鍵、開けとくから』 (…待ってる) スマホをぎゅっと握った。そんな仕草が見えることはないにしろ、こうでもしなければ溢れる気持ちでどうにかなってしまいそうだ。

ともだちにシェアしよう!