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 3時間後、真智雄は緊張したまま会社に戻った。事務所には諸角と亮太郎がまだ残っていた。 「おつー、どうだった?一人の初めての販売は?」 「販売よりも帰りが生きた心地がしません……。」  真智雄は急いで諸角の席に向かい、諸角の机にトランクと東京駅で買ってきたホールケーキの箱を置いた。 「売れました。納品は明後日、成城にある朴澤理仁様の御自宅にて…ということです。あ、これケーキの領収書です。」 「はい、ご苦労様でした。早速食べてしまおうかな、真智雄くん僕のフォークを持ってきてくれ。」  諸角にニコリとそう言われて真智雄は「はぁ」とため息を吐きながら事務所の簡易キッチンに向かった。ちらりと諸角の方を見ると、社長椅子の後ろにある金庫を静脈認証で解錠し、トランクの中の大量の壱万円札を手際良く収納している。 「真智雄くん、京橋駅からここまでキャッシュで1億円を運んだ気持ちはどうですか?」 「カード払いか小切手にして欲しいと思いました。重いし怖いし…残りは1億5000万円ですよね。」 「正確には1億7000万円、ウチは税抜き価格表示だからね。」  真智雄が緊張していた理由、キャッシュで1億円を運んでいたからだ。  この商売はアシがついたらお終いだからか、全て現金でのやり取りになっている。こうして購入の契約が成立した際には前金として1億円が顧客から支払われる。1億円の理由は重量だった。 「しゃちょー、もう俺もアラサーだしぃ、そろそろコロコロ付きのキャリーバッグにしませーん?マジで重いんですよぉ…。」  スマホを横にして美少女ゲームアプリを操作しながら亮太郎が訴える。真智雄も肯定するように「ウンウン」と頷いた。 「そんなコロコロしたバッグを引き摺ってる営業マンが何処にいるの?」  ニコッと笑って却下されて、亮太郎も真智雄も黙った。そして真智雄は金色の諸角のスイーツ専用フォークを諸角に渡した。それを受け取った諸角はホールケーキを切らずにそのまま食べ始めた。 「うーん…この季節ならではのリンゴの芳醇な香りと甘み…そしてマスカットのクリームが絶品だなぁ。うんうん、美味しい。」  諸角が買ってきたケーキに舌鼓を打ったことを確認し終わると、真智雄はため息を吐きながら帰り支度を始めた。 「リョーちゃん先輩、俺お先失礼します。」 「はいよー。俺は1杯飲んで帰るわー。」  真智雄は2人に「失礼します。」と頭を下げて、ビルの駐輪場に停めてある原付に跨って家路についた。

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