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Ⅷ
翌々日、朝早くにアルバは荷物をまとめてアンジェラスの事務所にいた。
「アルちゃん、こっちにいらっしゃーい。」
「はい、誠子さん。」
アルバはストロベリー色のポニーテールの女性に手招きされて指定された丸椅子に座った。
「あーあ、朝からキッモいオッさんの猫撫で声聞いちまったよ。今日のやる気萎えた。」
「んもう!リョーちゃんったらぁ、そんな意地悪なところもス・テ・キ・よ♡」
「うえぇぇぇ…。」
アルバの傍にいる女性のような男性は、専務の鵜野 誠一郎 、身体は工事していないが心は乙女なので「誠子ちゃん」と呼ばないと烈火の如くキレるようだ。
誠子は諸角と同じく内勤が中心で、こうして納品の日には商品となる少年を元美容師の技術を駆使して美しく仕上げる。商品カタログの撮影をする時も同様。
しかし主な仕事はシェアマンションにて管理兼商品の教育である。商品が顧客に奉仕出来るように最低限の家事を少年たちに教えている。
「つーか誠子、この前また勝手に俺の部屋入ったろ!」
「管理人の特権ですもの♡」
「職権乱用だよ!このクソおかま!」
誠子は亮太郎に好意を抱いているが、亮太郎はノーマルなので一切受け付けていない。
「誠子さん、さっさと商品のお手入れをお願いしますよ。」
諸角が爽やかに笑いながらそういうので亮太郎と真智雄は背筋が凍った。誠子は「はいはーい」と返事をして大きなメイクボックスを開けて、アルバの肌に触れる。
「アルちゃん、これからとっておきの可愛い魔法をかけてあげるわよ。」
「はい。」
真智雄は諸々準備をしながら、誠子の手によって綺麗になっていくアルバを見守った。
(朴澤様、どこか厳しそうな人だけど…アルバくんならきっと上手くやれるだろうな。)
「真智雄ぉ。」
「何ですか?」
「お前車ぶつけんなよ。」
「運転だけは散々やらされましたから慣れてます!」
そうは言っても、真智雄は一人で商品を届けるという作業は初めてだったのでどこか緊張しているのも事実だ。
空の現金輸送用アタッシュケースを拭って綺麗にし、これまた会社支給の高級アンティークトランクに契約書など忘れ物がないか何度も確認する。
「はぁい、出来ました♡」
「ありがとうございます。」
ヘアメイクを終えたアルバは、少し毛先を整えてふわりとブローしてもらい、碧眼の映えるシンプルなメイクを施された。薄い色のリップが妙に色っぽくて、真智雄もドキッと心臓が跳ねた。
「さて、早めに出ようかな。環八が混んでいて遅れたら嫌だからね。」
「はい……誠子さん、亮太郎さん、お世話になりました。」
短期間とはいえ、一つ屋根の下で暮らした2人にアルバは笑って別れを告げた。誠子はにこやかに手を振って、亮太郎も父のような優しい眼差しを向けた。
「元気でね、アルちゃん。」
「頑張るんだぞー。」
アルバは顔を上げると、真智雄の後に続いて事務所を出て行った。
「幸せになれるといいですねぇ。」
諸角も微笑んで閉じたドアを見つめた。
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