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 朴澤理仁の家の前に到着した。理仁と何人かの通いの使用人が出入りするだけの別邸とは聞いていたが、ならば本邸はどんな大きさなんだろうと溜息が出るほどの豪邸だった。  真智雄もこの1年弱で散々豪邸を見てきたが、その内の5本の指に入る大豪邸だ。門が既に1軒の家かと思うくらい立派だった。  家の前に車を停めて、アルバと荷物を降ろした。 「アルバくん、足元気を付けてね。」 「はい。」  真智雄は仕事用の白い手袋を装着し、アルバの手を取ってエスコートする。この1枚の布の隔たりにアルバは悲しさを覚えた。 (そうか…僕は『商品』だから俵さんは手袋をしているんだ……。)  つい昨日の夜、真智雄が「アルバくん、頑張ってね」と直に握手をしてくれたことがもう懐かしい。  門のインターフォンを押すと、応答があった。 『はい。』  声は老年の男性のようで、真智雄が会った朴澤理仁のものではなかった。きっと使用人なのだろう。 「本日、朴澤理仁様とお約束しています、エルテックサービスの俵と申します。」 『お伺いしております。只今お迎えにあがりますのでお待ちくださいませ。』  ガチャっとインターホンが切れて、真智雄は少しだけ胸を撫で下ろす。1分ほどしてインターホンの横の小さな扉が開いた。そこからは先ほどの声の主であろう、燕尾服を着た老年の紳士が出て来た。 「俵様、お待たせ致しました。ご案内いたします。」 「は、はい…あ、車って此処でいいですか?」  何気に路上駐車になっているので訊ねると、紳士は「鍵を」と手を差し出したので真智雄は車のキーを渡した。 「どうぞこちらに。」  促されたので真智雄とアルバは、その紳士についていく。玄関先でホテルマンのような格好をした男性が立っていて、紳士は車のキーをその人に渡した。 (これってまさか、執事と運転手!?オイオイオイ、まじかよ!スッゲーよ財閥の御曹司って!ここって21世紀の日本ですか!?)  礼儀として周りをキョロキョロしないように心がけているが、真智雄の心の中は御上りさん状態だ。  ちらりとアルバを見ると、アルバは何にも動じていない。普通なら少年たちも真智雄と同じような心境になるはずなのだが、やはりアルバは元金持ちなのだろうと改めて認識した。  西洋式の朴澤邸は靴を履き替えずに、足用マットで靴の汚れを落としてからそのまま邸宅に入っていくスタイルだった。真智雄は先週下ろしたばかりの革靴(ドンキで3900円)を履いてて良かったと安心した。  ちょっとしたシャンデリアのあるエントランスを抜けて、奥の方にある応接間に案内された。  (おそらく)執事に促されるまま、黒の高級な皮張のソファにアルバとちょこんと座って、顧客の到着を待つことになった。ドアが閉まるのを確認すると、真智雄は口を開いた。 「アルバくん…慣れてる?」 「あ……ダメでしたか?」 「いや、いいんだよ。むしろそっちの方が助かるっていうか…。」 「そうですか…良かったです。僕、他の子たちに世間離れしてるって言われてたので、ちょっと不安だったんです。」 「いや、もう此処の住人も世間離れしてるから大丈夫だと思うよ。絶対ラーメンとか食べたことなさそうだし。」 「あははは!そうかもしれませんね!」  楽しそうに笑うアルバの顔はそれはとても美しかったし、15歳という幼さを再認識させられて真智雄も胸が苦しくなる。  そうして数分後、応接間の扉が開いた。 「申し訳ない。少し仕事が残っていたので済ませていました。」  入って来たのは一昨日真智雄と商談した相手、朴澤理仁。だがあの時とは違い、ポロシャツとスラックスというラフな格好で髪も固めておらず前髪が下されていた。  真智雄はすぐに立ち上がって、理仁に一礼をする。アルバも真智雄に続いて動作を真似た。アルバは状況把握がよく出来ているので真智雄は「助かった」と心の中でアルバを褒めた。 「朴澤様、此の度は商品をご購入頂き、誠に有難う御座います。」

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