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 それから購入の手続きと、残りの1億7000万円が支払われ全てアタッシュケースに収める。 「俵さん、お元気で。」 「うん、アルバくんも元気でね。それでは、失礼致します。」  真智雄はドアの前に待機していた執事についていくように応接室を後にした。そのドアを寂しそうにアルバが見つめていると、向かい側に座っていた理仁が「んんっ」と咳払いをした。 「アルバ…でいいのか?」  咳払いをした理仁の方を向き直してアルバは姿勢を正す。そして誠子や亮太郎に教わった通り、笑顔で理仁を見つめて答える。 「はい。僕の名前はアルバです。」 「…さっきの販売員とは親しいようだったが…。」 「あ、あの…アンジェラスの人達は何も出来ない僕でもご主人様にすぐにご奉仕出来るようにと、お料理やお掃除お洗濯、あとテーブルマナーなどを教えてくれました。」 「そうか……。」  決して真智雄たちと一緒に暮らしていたなどと言ってはいけないときつく言い付けられていたので、上手いこと(かわ)す方便も誠子に教わっていた。自然に言えたようなのか怪しまれる様子もなかった。理仁はおもむろに長い脚を組むと、ソファに思い切り寛いだ。 「君を買ったのは、この屋敷で私の身の回りの世話をする専属の世話係が欲しかったからだ。どうも私は気難しい性格のようでね、日雇いであると次々辞めていく…それに給金を払うのも馬鹿馬鹿しい、だから買った。家事は一通り出来るのであれば問題ない。」 「……え。」  アルバが呆気にとられたような表情をしたので、それを見た理仁は少し驚いた。 「何だ、嫌なのか?」 「あ、い、いえ!精一杯、務めさせて頂きます。不束者ですが、宜しくお願いします!」  アルバはすくっと立ち上がって、慌ててお辞儀をした。そんな姿が滑稽だが可愛らしく見えた。理仁は「ふふふ」と小さく笑った。その声を聞いてアルバは顔をあげて理仁の顔をみる。 「君はただの世話人だろうに…ははは、面白いな。」 (あ……すごく、綺麗な笑顔だ…。) 「アルバ、おいで。」  理仁がスッと差し出した手に、アルバは惹かれていくように近づいた。  そしてアルバが伸ばした右手を理仁は優しく両手で包んで撫でた。 (あ……手袋がない…。)  当然のことなのだが、先ほどの真智雄の手袋の冷たさがあったからか、それが何だか嬉しくなってアルバは顔を綻ばせた。 「私のことは理仁と呼びなさい。」 「はい…理仁さま。」  アルバの中にあった親切にしてくれたアンジェラスの従業員たちとの別れの寂しさは、もうどこかに飛んでしまっていた。

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