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 「辛ニンニクラーメン(大)」を存分に堪能した真智雄と好重は満足そうに「アンジェラス」の事務所に戻って行った。 「ただいま戻りましたぁ。」 「いやぁ食ったぁ、美味かったなぁ。」 「やっと帰ってきたかラーメン馬鹿2人が。」  事務所は相変わらず仕事もなく営業の亮太郎(リョータロウ)は自分の机でダラダラとお気に入りの美少女ゲームに勤しんでいた。真智雄が遅れたことで業務に支障は一切なかったようだった。真智雄は自分の席に戻り、好重は手に持っていた黒烏龍茶を飲みながら奥に座っている社長の諸角(モロズミ)に近づいた。 「諸角氏、明日なんだけどさぁ…。」 「ええ、貴方の親から聞いてますよ。商品になり得る子はくれぐれも無傷でお願いしますね。」 「ありゃりゃ?俺筆頭になってからは結構大人しくなったんだぜぇ。」 「それとニンニクの匂いが凄いですね。臭い。」  諸角は相変わらず不気味にニコニコしたまま手元にあった消臭スプレーを好重に向けて噴射する。 「それと真智雄くん、私の半径3m以内には入らずに聞いてくださいね。」  ニコニコして嫌厭しつつ真智雄に事務的な会話をかける。 「明日の午後7時にお客様の予約が入りました。麻布台の『ろく楼』というお店の桜の間です。」 「麻布の『ろく楼』⁉︎」 「あー…俺も政治家のお偉いさんに商談した時に行ったなぁ。雲丹(ウニ)のなんか茶碗蒸しみてぇなの旨かったわ。」  政治家やVIPレベルの人間しか使わないと言われる日本有数の超高級料亭の名前が出てきて真智雄は身震いがした。 「勿論、支払いは此方(こちら)持ちなので会社のクレジットカードを忘れないように。」 「は、はいっ!」  何故か真智雄は敬礼してしまう。亮太郎はそんな真智雄を見ながら腹を抱えて笑う。 「そんな大層な場所ってことは客は政治家様だったりするのか?」 「お客様のプライバシーですので教えられませんね。」  諸角に当たり前のことを返されると好重は「けっ」と拗ねるような声を出して諸角から離れ、出口の方に向かって行く。 「俺は明日の仕事に備えて今日はおとなしくしてましょーかね。」 「あ、よっちん、次いつ来る?」  美少女ゲームをしてた亮太郎は出て行こうとした好重を引き止める。  このテクノカットの若衆筆頭に「よっちん」なんてフランクに呼べるのは、好重のシマの風俗嬢たちか亮太郎くらいだ。 「あー、獲物が無事だったら明日の夜にマンション行くけど。」 「ラッキー、丁度よかった!それ終わったら麻雀付き合ってよー、1人出張で来れなくなってさ、真智雄は麻雀できねーし、な?帰りラーメンおごる!」  亮太郎とは麻雀、競馬、競艇、競輪で気が合うよっちんだった。 「リョーちゃんの頼みなら仕方ねぇな。また薬局のジジイとキャバレーのおっさん?」 「そうそう。」 「じゃあ東京駅限定のあんぱん買って来てやんよ。」  好重は東中野でお年寄りたちともほのぼのとしたコミュニティを構築していた。 (薬局のジジイってアジサイ薬局の田中さん(70歳)だよね……田中さん、劔さんが恐くないのかな…。)  真智雄は明日に備えて、インターネットで懐石料理の作法を検索しながら出て行く好重を見送った。

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