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第8話
途方に暮れた俺はすごすごと寮に逃げ帰ってきて、ぼふんとベッドに倒れこんだ。スプリングの鈍い悲鳴が胸に刺さる。
部屋に行くのもダメ。
来てもらうのもダメ。
段々と気持ちが萎んでいく。
俺がこんなことしなくたって、今日の智瑛は元気そうだった。iPadを手に入れて快適なオタク活動が出来るとルンルンだった。もう握手会のことなど忘れてしまったかのように。
「なんか、必要なかったかな…」
クローゼットに眠ったままのミオちゃんのステージ衣装。奥から引っ張り出した擬似おっぱい。
必要なかったのは、ミオちゃんのコスプレ衣装かそれとも俺自身なのか。
ピロリンと高い機械音がして、スマホが智瑛からのLINEを受信を知らせた。メッセージを開くと、『上手く描けたよ!』という喜びのメッセージと、先程描いていたミオちゃんをデフォルメした可愛らしいイラスト。なんの因果か、智瑛のイラストのミオちゃんは俺が買った衣装と同じものを着ていた。
「智瑛…」
智瑛はイラストやグッズの出来がいいと、いつもネットに上げる前に俺に見せてくれる。俺はミオちゃんのファンでもなんでもないことを智瑛は知っているのに。
智瑛がミオちゃんの追っかけをしていることも、オタ芸ばっかり磨いていることも全然構わない。寧ろカッコいいと思う。そんな風に一つのものをこれでもかと追い求められるのは凄いことだと。俺にはそういうものはないし、今のところ見つかる気配すらない。
ただただ勉強と生徒会の仕事に追われて日々がなあなあと過ぎていく俺なんかよりずっとキラキラしている。
俺はそんなところを全部ひっくるめて智瑛が好きだ。昔から、いつもキラキラした俺のヒーロー。
だから智瑛がミオちゃんの話ばかりしていても全く嫌じゃない。智瑛の好きなミオちゃんを知りたいし、頑張って描いたイラストを見せて欲しいと思う。
ただその情熱のほんの一部を、俺に向けて欲しいだけで。
「智瑛ぃ…」
俺はちょっと湿っぽくなった枕を抱いて、その日はシャワーを浴びてパックもせずボディクリームも塗らず、それどころか髪も生乾きのまま布団の中に潜り込んだ。
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