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第14話
どうしよう。
俺は硬直した。
話があるとわざわざ訪れてくれた智瑛を無碍にするようなことはしたくない。できるなら今すぐドアを開け放ってしまいたい。
だがしかし、今の自分の格好。
ミオちゃんのコスプレ衣装を、着ているだけ。メイクもヘアセットもしていない気色悪い女装姿。胸もないからフィット感もなくてみっともない。
とても見せられたものじゃない。
「む、無理…」
小さな小さな拒否は智瑛には届かなかったようだ。俺はもう一度息を吸って、改めて無理だと伝えようとした。
が、ふと思い留まる。
これでいいのか?
俺はグッと奥歯を噛み締めて、ドアを少し、ほんの少しだけ開けた。困ったような智瑛の顔がちょっとだけ覗いた。
「…5分したら入ってきてくれ。」
バタン。
智瑛の返事は待たずにドアを閉めた俺は、急いでミオちゃんの衣装を脱ぎ、適当な私服に着替えた。
そしてベッドの上に綺麗にミオちゃんの衣装を広げ、ウィッグやメイクセットも出した。大きく深呼吸をして心を落ち着けるとちょうど5分。
玄関ドアを開けると、智瑛はまだそこにいてくれた。
俺が無言で招き入れると智瑛は一歩踏み出し、玄関で立ち止まる。
「優太、あのさ…」
「智瑛、見て欲しいものがあるんだ。」
そう声をかけると、智瑛はようやく部屋の中まで入ってきた。すると当然、目の前にはベッドの上に広げられたミオちゃんのコスプレ衣装とメイクセットが広がっている。
智瑛が息を飲んだのを感じる。顔は怖くて見られない。ここまで準備しておいて、今になって怖気付いている自分がいた。
女装趣味の変態野郎と思われないかと。
「優太、これ…どうしたの?」
智瑛の手がミオちゃんの衣装に伸びる。筋張った男らしいカッコいい腕を視線の端に捉えながら、俺はグッとこみ上がるものを感じた。
「握手会に、行けないって…落ち込んでたから…気分だけでも…」
言いながら、込み上げてきた涙はぼろりと溢れていった。
なんだか、すごくバカなことをしていた気がする。
そもそも俺はミオちゃんではないし女の子ですらない。女装のスキルを磨いたってどこで役にたつというのか。外にデートに行くこともないのに。智瑛のためと称して、どんどんメイク技術が上がって綺麗になることをどこかで楽しんでいたのは俺の方だ。
俺は呆然としている智瑛の前を通り過ぎて、クローゼットを開け放った。
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