15 / 19

第15話

クローゼットの中は、女の子用の服がぎっしり詰まっている。思えば自分の私服よりも多いかもしれない。男の俺が着てもなるべく不自然ではない、かつ智瑛の好みの服装に対応できるようにいろんな女の子のコーディネートを研究した結果だ。 メイクボックスも同様、安価なものから高価なものまで色とりどりのコスメが揃っているし、ウィッグだって長さ別に数種類揃えてある。 自分が楽しくなければ、ここまでできるはずもない。 「…智瑛がッ…俺が男だからダメなんじゃないかって、だから、女の子の格好をすれば、って…でも、でも本当は、俺自分が楽しくて…ッ!」 一度溢れた涙は決壊したダムのようだ。ボロボロ溢れる涙に垂れてくる鼻水、勝手に上がる汚いしゃくりに歪む顔。 可愛い女の子とは程遠い。 俺は、女の子になりたかったんだろうか? いや違う。きっと智瑛に、俺のヒーローに似合う人間になりたかった。ヒーローの隣には可愛い女の子が似合う。そう、ミオちゃんみたいな。 泣きじゃくる俺を、智瑛がぎこちない手つきで抱きしめる。片手でぽんぽんと背中を叩いて、もう片方の手は俺の手を優しく握ってくれた。 覚えているよりずっと大きくなった、けれどなに一つ変わらない温かい手。 「…優太。」 「きッ気持ち悪い?よな?ごめん俺ッ…」 「優太ごめん、ごめんね、俺が悪かった。」 ギュッとより強く抱き締められて、俺は智瑛の肩に顔を埋めた。 溢れる涙で智瑛のシャツはあっという間に湿った。鼻水もついただろう。 「優太、俺ね…優太が思ってるようなヒーローなんかじゃないんだよ。ズルくて臆病なキモオタそのものだよ。だからそんなに俺なんかのために泣かないで。」 その智瑛の声こそ泣きそうで、俺は少し落ち着きを取り戻した。 智瑛は一呼吸置いて静かに語り出す。 「優太は引っ越して違う中学だったから知らないだろうけど…俺ね、中学の時先輩にイジメられてたんだ。」 という、衝撃の過去を。

ともだちにシェアしよう!