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第16話
絵を描くことが好きだった智瑛は中学に入ってすぐに美術部に入部し、持ち前の明るさで友達もすぐに出来て順調な滑り出しを見せたものの、それは長く続かなかったそうだ。
夏休みに入るころ、当時3年生で生徒会長だった先輩とたまたま帰りに一緒になり、好きな漫画が同じだったために意気投合し、一緒に遊びに行くような仲になった。そして智瑛はその先輩の取り巻きに目をつけられたのだとか。
「そんな大したことされてないけどね。すれ違いざまに舌打ちされたり、うぜぇとか消えろとかって俺にだけ聞こえるように言ったり…それも、先輩が卒業したらなくなったんだけど。」
バカでチビで鈍臭くて、クラスに馴染めなかった俺を救い出してくれた智瑛が、イジメ。
智瑛はそんなことから無縁の、むしろ人の輪の中心で生きていくんだろうと思っていただけに、俺にはそれが信じられない思いだった。
「その、生徒会長だった先輩は助けてくれなかったのか。」
「先輩は…いつしか離れていったよ。」
「そんな…」
「で、当時まだ地下アイドルだったミオちゃんに出会った。イキイキしてて、キラキラしてて…毎日が鬱々していた俺にはすごく眩しくてすぐに夢中になったよ。」
ミオちゃんとの出会いの背景にそんな事情があったなんて、全く知らなかった。
辛くて苦しい日々を助けてくれたのは、ミオちゃんだったのだろう。
言っても仕方ないが、それは俺の役目であって欲しかった。智瑛が俺を助けてくれたように、俺が智瑛を助けたかった。
「高校に入って優太と再会したよね。優太はすぐ告白してくれて…嬉しかった。嬉しかったけど怖かったんだ。優太はすごく綺麗になってたから、先輩みたいにみんなの人気者になるだろうなって。また、調子乗るなって詰られるんだろうなって。」
そこまで一息に智瑛が、躊躇いを見せた。
智瑛が俺との関係を知られたくない理由にそんな過去があったなんて想像もしなかった俺は、ただ阿呆のようにぽかんと智瑛の話を聞くしかできない。
なんて声をかけたものかも思いつかない俺を他所に、智瑛は再び語り出した。
「でも俺ズルいから、優太が昔と同じように『智瑛はすごいな、カッコいいな』って慕ってくれるのが気持ち良かった。ほんとは全然すごくなんかないのに…ちっぽけな自尊心のために優太の気持ちを利用して、自衛のために優太の気持ちを無碍にしてたんだ。最低だろ?」
力なく笑った智瑛が俺を解放する。
やっと見られた智瑛の顔は苦々しい自嘲の笑みを浮かべていた。
「幻滅した?」
「するわけない!!」
幻滅なんてするわけない。鈍臭かった俺を助けてくれた昔も、好きなものを直向きに追いかける今も、俺にとってはキラキラでカッコいいヒーローだ。
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