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奥州の隠れ鬼 壱

私は都の僧侶で、慶明と申します。 もうお気づきかと思いますが、目が見えません。 まぁ……かろうじて明暗が分かるくらいでございます。 この山、鬼霧山と言いまして、この団子屋の前の道を真っ直ぐ行ったところに鬼霧村という村があります。私はそこに泊まらせてもらうことになったのです。 私はお金をあまり持っていませんでしたので、按摩(あんま)をさせてもらったり、近くのお寺のお手伝いをしながら、泊まらせてもらっていました。 ある日、村長の家に招かれました。 ……こんな旅の僧侶を手厚くもてなすには、訳があると、私には分かっていましたので、程々にもてなしを受けた後、それとなく聞いてみたのです。 すると、やはり「鬼退治」をして欲しいと言うのです。 鬼霧村という村には、その名の通り、人喰い鬼の伝説があるそうで、この辺りで戦があった時から鬼がいたらしいのです。 その鬼は、山に棲んでいまして、時々山から降りて人を脅かすのだそうです。 そして、最近、その鬼を見かけたものが多数いるらしく、困っていると。 その鬼を初めて見つけたのは、鹿を捕りにいった猟師でした。 大きな体をしてボサボサとした白髪の、古びた鎧を着た鬼らしいのです。 人喰い鬼? いえいえ、ただ木の影からぼーっとこちらを見ているだけ。 目が合うと、さっと隠れる。 次は山菜採りをしに来た老女が見つけました。 同じく、ぼーっと木の影からこちらを見ているだけ。 その次は薪になる枝を探しに来た女の子。またその次はかくれんぼしにきた男の子。さらにその次には……、あぁ、もういいですね、申し訳ない。 それより気づきませんか? 危害を加えるわけではないのですが、気味が悪い上にこの鬼はね……。 ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□ 「嗣春、我には慶明が言っとる意味がよく分からん」 貞観は嗣春の膝に頭を載せながら、首を傾げた。 「はい……私も初めはよく分からなかったのですが、慶明に説明されて合点がいきました」 「何なのじゃ、早う教えてたもれ」 慶明の焦らすような言い方は、されるとイライラするが、人にするのは何だか気持ちがいい。 正解を知っている自分だけの特権のような気がするからだ。 「距離ですよ。ほら、猟師は獲物を捕るために山深くまで行くでしょう。反対に、体力のない老女や子どもたちは、山の中でも村に近いところで山菜採りや薪を拾うんですよ」 「つまり……その鬼は、だんだん山から下りてきておるということか?」 嗣春は、慶明がしたようにゆっくりと頷いた。 「山狩りをしようにも、鬼がうろついているから、なかなか山にも入れない。今は何もしては来ないが、伝説の人喰い鬼かもしれないと村人が怖がっているのだと」 「我が聞いた話は、その人喰い鬼だ。何でも、男を食らう鬼だとか……」 「その何もしてこない鬼は、その人喰い鬼とも繋がっているのです」

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