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奥州の隠れ鬼 参

鬼霧村を出て、山に入った私は、村に近い森の入口の方を歩いていました。 ただ木の影からじっと見つめるだけの鬼は、村に近いところでよく見かけられていたからです。 山道を歩いていると、お地蔵様がありました。 なぜ分かったかって? お線香の香りで分かりました。 山道はお地蔵様や道祖神様たちがよくありますしね。 お地蔵様にご挨拶をと拝んでいると、後ろの方で気配を感じました。 「どなた様ですか?」 すると、低い男の方の声が聞こえてきました。 威嚇するような、鋭い声。 「お前……何をしに来た。ここは鬼が出るという山だぞ。男を食う鬼が出るのを知らぬのか」 「それはそれは……恐ろしい鬼がいるのですね。そんな山にいるあなた様は、一体何者なのですか?」 私がそう聞くと、うう……と少し困ったように唸ると、「俺は……その、道に迷って……」と詰まりながら話した。 「迷われたのですか。それはお気の毒に。ここら辺は霧が深いらしいですしね。どこまで行かれるのですか?宜しければ、私とともに行きますか?」 「いや、それには及ばぬ。探し物をしておる故、時間がかかる」 「探し物!それは大変だ。こんな山深いところを探し回るのは大変でしょう。私も微力にながらお手伝いいたします」 「……勝手にしろ」と吐き捨てるようにその方は言われたため、「はい。勝手にお供いたします」とついて行くことにしました。 歩くたびにカチャカチャという音が聞こえ、草を踏み鳴らし、時々水たまりにもはまりながら歩かれていて、イライラしたように舌打ちもしていました。 しばらく歩いていくと、その方は止まりました。 そして、大きなため息。 「……僭越ながら、武士様。先程からぐるぐる、ぐるぐると同じところを回っているように思われるのですが」 「そんなはずなかろう!ずっと奥に歩いているのだぞ!」 「いいえ。ほら」と、私は足元を指さしました。 先程拝んだお地蔵様がいらっしゃいました。 その前で膝から崩れ落ちるように座り込んでしまいました。 「何故、何故奥に進めぬのだ……。山には下れて、何故登れぬのだ……」 泣きそうな、哀れな声でつぶやく声が痛々しく……私はそっと、その御方の肩に触れました。 「私は村の人に二匹の鬼を退治してほしいと言われました。一人は恐らく貴方様。もう一人は、あなたが先程言われた『男を食らう鬼』でございます。どうか、私にあなたとその鬼のことを詳しく教えては下さりませんでしょうか」 「貴様、何者なのだ……。目が見えぬのに、俺を武士だと見破った……」 「刀の音と、鎧の擦れる音。ただそれだけのことでございます。貴方様の姿は、確かに今は恐ろしいかもしれませぬが、私には一人の人間にしか思えませぬ。貴方様ももう一人の鬼も救いたい。そのためには、貴方様のお話が必要なのです……!」 それだけを言うと、「あぁ……」と嗚咽をあげながら泣き出した。 「全て、俺が悪いのだ……。こんなことになるのなら、戦になど行くのではなかった……」 ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□ 「その村には、二人も鬼がいたのか!?」 嗣春の膝を枕にしながら、貞観様は驚いていた。 「まぁ、正確には、山でさ迷っていた武士と、男を食らう鬼ですね」 「その山でさ迷っていた武士を見た村人が鬼と見間違えたのだな」 貞観は、話の内容を頭の中で咀嚼した。 なかなかにごちゃごちゃとした話であるため、整理するのが難しいが、話上手な慶明の真似をしながら、嗣春は話を続けた。

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