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あれから1か月後……04
「全てを知った智紀はどうなるんです?」
「さあ? それは智紀次第だ。どんな形になろうと、私は楠木莱耶と智紀には援助を続ける」
「それは罪人として?」
「恋人として、だ」
私はデスクに向かって、札束を投げた。新札で600万円を莱耶に渡した。
「恋人なら……、こんな大金を恋人にあげたりしない」
莱耶が拳銃を腰に仕舞うと、首を横に振った。
「普通の恋人同士ならそうかもしれない。互いに慎ましく金を稼ぎ合い、同棲し、愛を確かめ合うだろうな。だが私はそこら辺にいる人間とは違う。闇の中で生きている。智紀を外で働かせるわけにはいかない。危険が伴う行為を、智紀にはさせない」
「智紀が外で働きたがっていても?」
「無理だ。金が必要なら、私がいくらでも出す」
「そういう問題じゃない。智紀は有り余る時間をどう使っていいかわからない。だから外に出て、働きたいって思ってるんです。何でも良い。どこか働ける場所を作ってやって。闇に生きる恋人なら、それくらい出来るはず」
私は智が持ってきた経過報告書を開いた。確か、さっき見たときに智紀が住んでいる場所の地図が入っていたのが見えた。
「アパートの近くにあるコンビニとファミレスに明日から求人広告を出しておく。今日中にコンビニとファミレスを買い取って、私の支配下に入れておく。従業員は全て裏の人間。智紀も守れる実力者たちを用意しておく。それでいいな?」
「ええ。ありがとうございます」
莱耶がデスクの上にある100万円を手に取った。
「莱耶……500万円、忘れている」
「要らない。恵がどう出るか、見たかっただけだから。家族愛に目覚めて、くだらない人間に成り下がったのなら、600万円を貰って海外にでも逃亡しようかと思っただけ。智紀を一番に考えてくれているなら、生活費だけで充分」
莱耶がフッと微笑むと、100万円を懐にしまった。
「莱耶、心に留めておくのが辛かったら、智紀に全て話して構わない。秘密にしておけ……とは言わない。私の過去は、何をしても変えられないし、消せない。事実だから、莱耶や智紀にどう思われようとも受け止める」
「智紀に話せるなら、僕だってとっくにしてるさ」
莱耶が私に背を向けて、「ふう」っと息を細く長く吐き出すのが見えた。
「莱耶、すまない。本当に……」
「謝るな。僕は恵に謝って欲しいとは思わない。両親のことは、頭を下げてもらいたくない。恵が謝ったら、僕はそのことについて答えを出さなくちゃいけなくなる。だから、謝るな。僕は答えを出したくない」
莱耶が振り返らずに、部屋を静かに出て行った。私は、莱耶が持っていかなかった500万円を手に取ると、金庫にしまった。
「『答えを出したくない』か」と私は莱耶の言葉を繰り返すと、壁に背をつけた。
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