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最悪のシナリオ02
「え? 俺の親!? 交通事故だろ」
「ただの交通事故ってわけじゃないのよ」
ふふふっ、と意味ありげな笑みを浮かべて、俺を見下ろしてきた。
ただの交通事故じゃないってどういう意味だよ。
俺は優衣を見つめたまま、次の言葉を待った。
「貴方ってホント、何も知らされてないのね。まあ、べらべら話す内容ではないけど」
「だから、『ただの交通事故』じゃねえって何なんだよ!!」
こいつと話していると苛々する! 言いたいことがあるなら、さっさと言えっつうの。
「貴方の両親、殺されたのよ。道元坂 恵によって……ね。その後、交通事故に見せかけて処理したの。道元坂 恵の組織がどうやって事後処理するか……というのくらいは知っているんでしょ? 長年、一応、付き合ってる仲なんだし」
ニヤリと口の端を持ち上げて、優衣が笑う。
なんだって? 俺の両親を道元坂が殺した?
まさか。だって、交通事故だ。
両親で出かけてて、その途中で事故に遭ったって聞いた。
ヤクザでも、マフィアでもない俺の両親が、道元坂に殺されるわけないじゃないか。
何かの間違いだ。絶対に違う!!
「その顔は信じてないわね。まあ、いいけど。信じるも信じないも、貴方次第。でも私は真実を言っている。それだけ」
優衣の携帯が鳴りだした。優衣が「なにかしら?」と言いながら、携帯をポケットから取り出すと相手を確認してから耳にあてた。
「なに? 今、忙しいの知っているでしょ!! ……え、ああ、そう。二人とも死んだの。あっけなかったわね。もう少し粘ると思ったけど。わかったわ……って、ちょっと、何するの!?」
携帯に気を逸らしたのを見計らってから、俺は優衣に飛びかかって拳銃を奪った。
意外とあっさりと俺の手の中に転がり込んできた拳銃を握り締めると、俺は銃口を優衣に向けた。
優衣の目が細くなる。通話中の携帯を放り投げ、優衣が口を閉じて俺を睨んできた。
「それ、使えるの?」
「つ……使える、さっ!! じゃなきゃ、う、奪わねえし」
「声が震えてるわ。貴方じゃ、無理ね。この状況を打破なんて出来ない。それに道元坂も、ライも助けになんて来ないわ」
「……助けなんて……待って、ねえし!!」
嘘だ。俺、待ってる。
道元坂か、ライさんが俺を助けにきっと来てくれるってどっかで思ってる。
危機的状況を、助けてくれるって、心のどこかで思ってる。
駄目だ。こんなんじゃ!! 俺がどうにかしなきゃ、駄目なんだ。
考えろ。考えて、ここから逃げるんだ。
「外には私の部下がいるわ。たとえこの部屋を出ることが出来ても、部下から逃げきれない。それくらいわかってるでしょ?」
「わ、わからねえよ。逃げられるかもしれないだろ」
「逃げられるって思ってるなら、馬鹿ね。貴方がいかに馬鹿かを教えてあげるわ。頼りにしている『ライさん』とやらは、死んだわ。私の部下が病院の駐車場で息の根を止めたわ。それと蛍も、ね。医師の振りして潜り込ませた部下が、呼吸器系の器具に細工をして、殺させたわ。今頃、道元坂 恵はその対応に追われてて、貴方どころじゃないわね」
くくくっ、と優衣が楽しそうに笑った。
「な、なんだって!?」
「聞こえなかった? 蛍もライも死んだの。道元坂にとったら、最悪のシナリオだわ。私にとったら、最高に面白い喜劇ね」
「あんた……最低だな。梓にそっくりだ」
俺は拳銃の引き金をひいた。
俺が今、ここでこの女を殺しても、罪にはならない……そんな気にさせられた。きっと罪にはならない。
兄貴かもしれないライさんが、死んだ?
兄貴なのか?って質問もできずに、俺は……兄貴のように慕っていたライさんを失ったのかよ。
蛍だって……、俺にとったら唯一の親友的存在だったのによ!!
どうして目の前にいる女は、人の死に笑顔でいられるんだ?
「俺、何があってもここから逃げ出してやる」
俺は生まれて初めて、拳銃とやらを撃った。
すごい衝撃だ……いや、反動か。
優衣の足に狙いをつけて撃ったはず……なのに、勝手に手が上に向き、俺は左肩を撃ち抜いたようだ。
「ああぁっ!!」と俺は叫びながら、拳銃をその場に投げ捨てると、窓を開け放ってベランダへと走り出した。
玄関に走っても、外に出た時点できっと優衣の部下に殺されるだろう。
一か罰か。ベランダから逃げる。
殺されるか。運よく、ベランダから飛び降りて逃げられるか。二者択一だ。
生き延びて、道元坂に全てを聞かなくちゃ、気がすまねえよ!!
優衣の話しが本当かどうか。俺は道元坂に確認しなくちゃなんだ。
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