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最悪のシナリオ04

「なんだ?」 『宣戦布告をしようと思って』 「行動を起こす前にするものだが?」 『ちょっと遅くなっちゃったの。ていうか、宣戦布告なんてしたら、警戒されて何も出来ないじゃない』 「正々堂々とやらないところが、君のお母さんにそっくりだ」  梓のような人生を送って欲しくなくて、梓から遠ざけたのに。どうしてこうも梓に似てしまったのか。  我が子、可愛さゆえに梓からの抹殺から逃れるように、必死になったのに。それがまるで無意味だと、付きつけられているようだ。 「智紀を見失ったようだな」 『さっそくお助け電話でもきた? そもそも智紀ってヤツは殺す予定にないし。殺す価値も見出せない男よね。でも、智紀には辛い現実を教えてあげたわ。お父さんが知られたくない2つの過去を話したの』  知られたくない過去……だと? 「なんのことだか、わっぱりわからないな」 『強がる必要ないわ。ライってヤツが、智紀のお兄さんだってことと、智紀の両親をお父さんが殺したって話をしたの。覚えてるでしょ? 忘れるわけない。いまだに会社の社長室のデスクに隠してるんだから。書類を』 「随分と私の過去を調べたようだな」 『当たり前よ。お母さんの組織を引き継ぐのよ。最大のライバルであるお父さんを調べないわけないでしょ。可愛い娘の振りして身辺を全部、調べたわ。蛍もライも死んだ。あとはお父さんだけ。そうすればお父さんの組織なんて、あっという間に崩れる。簡単よ』 「蛍もライも死んだと思うのか?」 『は? 生きてるわけないじゃない』 「そう、か。そう……だな」  私はフッと口元を緩めた。 『お父さんには少しだけ時間をあげるわ。智紀と再会して、別れを突きつけられなさいよ。過去話しで盛り上がって、喧嘩して、智紀に恨まれるといいわ』  優衣が『あはは』と愉快な笑い声をあげながら、電話を切った。  私は携帯を太腿の上に置くと、指先で眉間を抑えた。  智紀が、私の汚点を知った……と。  知られたくない最大の過去を、優衣が智紀に話した、と。  私のした過去を知ってもなお、智紀は私に助けの電話をよこしたと言うのか。  それは私を怒るため? 許すため?  なんにしても、私は智紀ときちんと話しあわなければいけないのだな。

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