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最悪のシナリオ06
―ライside―
「いい加減、銃口をこちらに向けるのをやめてくれないかな?」
真っ青な顔で気を失って横になっている蛍を挟んで、僕は男たち三人に銃を向けている。
そのうちの一人が、細身の男を銃口から庇うように胸をはり、背筋を伸ばして、僕に拳銃を向けていた。
蛍の頭付近に座っている端正な顔立ちで、勤勉そうな雰囲気の眼鏡男子は、僕たちのやり取りを温和な顔で見つめていた。
今の緊迫したムードにそぐわないほどの温かい表情に、僕の頬がピリピリと震えた。
「それを言うなら、君がまず銃口をさげ、拳銃を仕舞うべきだ。僕と蛍をどこに連れて行くつもり?」
「『安全な場所』そうさっき説明したはずだ。それ以上は言えない」
細身の男を庇っている大きな身体つきの男が、僕を睨みつけたまま、ぶっきらぼうに言い放つ。
「手術中の蛍を拉致し、僕までも無理矢理、車に連れ込んでおいて、安全な場所って良く言えるもんだね?」
いっそのこと、この殺気を放っている大男を撃ち殺してしまおうか。
「俺たちは、道元坂さんに頼まれたから、やっているだけだ。あんたたち二人を、匿ってくれとね。だからこうやって、移動している」
「どこに?」
「それは言えない」
「言えるはず。蛍はまだ治療を要する身体なんだ。場所によっては僕はすぐにでもここを出て行く。蛍を死なせたくない」
僕がキッと目の前にいる男を睨みつけると、その男の背後にいた細身の男が、身を乗り出してきた。
「馬鹿か!? 拳銃を向けられてるのに、なんで僕を庇っている? 守るべき相手は、僕じゃないだろ」
背後にいた男が、拳銃を持っている男の後頭部に平手を入れた。
「あいつは念のために、と防弾ベストを身につけている。ライっていう男は、殺し屋だ。この距離で、銃を向けられたら那津は一発で殺される」
「だから、馬鹿かと言っているんだ!! 目の前にいる男は殺し屋なんだろ。防弾チョッキを着ているか、どうかなんて服の膨らみかたでわかるだろうが!! そこを外して撃たれたらどうするんだよ」
僕の目の前にいる男たちが口喧嘩を始めると、今まで静観していた眼鏡男子がクスッと笑みを漏らした。
「仲間割れ?」
僕がぼそっと吐き出すと、眼鏡男子が首を横に振った。
「楠木 莱斗さん、騒がしい二人で申し訳ありません。私は紀伊 靖明と申します」
自己紹介をした眼鏡男子が、律義にゆっくりとお辞儀をした。
僕は眼鏡男子……紀伊と名乗った男の全身を舐めるように一度、じっくりと見やった。
紀伊 靖明。裏の業界で彼の名を知らないヤツなんて大馬鹿野郎だ。
彼の名を小さい声で呟いてから、僕は喉の奥を鳴らした。
「君たちは龍原組の……」
次期後継者とその側近たち。
「そう私たちは、その龍原組の一員です。組長自ら動くと、事が大きくなるので、私たちが隠密に動くことになりました。蛍さんのカルテはすでに別の信頼できる医師の手元にあります。その医師が我々の監視下において、治療しますのでご安心を。今、向かっているのにその医師が待機している場所です。貴方がたは命を狙われています。私たちが責任をもって、貴方たちお二人をお守りします。ですので、拳銃をお納めください」
靖明と名乗った青年が、「綾斗、拳銃をしまえ」と命令をすると、喧嘩をしていた二人が口を閉じた。
拳銃を握っていた綾斗と呼ばれた男は「はい」と短く返事をしてから、胸元に拳銃をおさめた。
僕も続けて、拳銃を腰に仕舞った。
「君が話した医師っていうのは、モグリの医者じゃないよね?」
蛍をデタラメな医師に任せたくない。絶対に、死なせたくない。
僕は蛍に何も……してあげられてない。
一方的な想いをぶちまけるだけで、蛍の想いを受け入れられてない。
受け止めたいんだ。目が覚めたら、蛍が理想とする恋愛をしたい。
「ええ。きちんとした医師です。週3日は医大で外科の外来を、ほか週2日は個人病院の外来を。残り2日は、龍原の屋敷内にある診療所で働いている医者です」
「名前は?」
「二条 葵先生です。大丈夫、腕のたつ先生ですから。道元坂さんの了承なら得ています」
「そう、ならいいけど。ちょっとでもおかしい行動をしたら、僕は容赦なく撃つから」
「ええ。わかっています。道元坂さんから、丁寧な忠告をもらってますから」
靖明が、にっこりと笑った。
どんな忠告をもらっているんだ?
まだ十代後半くらいの男子なのに、なんだこの落ちつき払った態度は。
それに比べて、他の二人は十代まっさかりって感じの雰囲気だ。血気盛んな性格が丸出しだ。
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